ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

2022-01-01から1年間の記事一覧

感想37『冬の蜻蛉』・『峠の声』

59. 伊集院静『冬の蜻蛉』(講談社文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ あっさり読み進められるけど味わい深い、7つの短編が収録されている。料理に例えるなら、なんだろう、塩鍋だろうか。読みやすいのは、語りが淡々としているのと、定番の型に当てはめられる話が…

緑の閃光

私がグリーンフラッシュを見たのはこの海だった。 この海と一口にいっても、当然ながら太平洋は広大だ。洋上に浮かぶ船で体感するそれと、今こうして、防潮堤に腰掛けながら眺めるそれは、空間的には繋がっているにしても、果たして一括りにして良いものか、…

感想36『2017年版夏井いつきの365日季語手帖』

58. 夏井いつき『2017年版夏井いつきの365日季語手帳』(マルコボ.コム) 再読したい度:☆☆★★★ 図書館シリーズ。1日1句、全365句が味わえるようになっているのを、2週間弱で堪能した。取り上げられた俳句は写実的で基本的なものが多い印象。調べると年ごと…

感想35『遮光』・『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』

56. 中村文則『遮光』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ 冒頭の印象はZAZEN BOYS『ASOBI』の世界観だった(曲を知らない方は下の動画を見ていただきたい)。主人公の男は、女や友達の話を全く聞いていない。バカのふりをして、でも研ぎ澄まされた感性を持ち…

埃舞い、光を掴む

息子が一歳になった。 彼にとっては自分の力でできることが増え、また我々はそれに応じて気付かされることが多い毎日だ。 彼の微笑ましい動作の一つに「手をぐっと握り、ぱっと開く」を繰り返すというものがある。光り輝くものを指して、我々大人は手をパー…

韓国くいだおれ出張記

異国の地へ6泊7日の「くいだおれ」の旅へ行ってきた(本当は仕事だよ)。 舞台はこちら。写真ですぐにおわかりだろう。そう、韓国は釜山の海雲台(ヘウンデ)である。 初日は到着が遅かったのでホテルでカップラーメンを食べながらビールを一杯。日本語や英…

感想34『神様ゲーム』・『出版禁止』

54. 麻耶雄嵩『神様ゲーム』(講談社文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 妻の本棚シリーズにして、読み始めてから気づいたが、再読シリーズ。結末が衝撃的というか腑に落ちない内容だったことは覚えていたが、その結末自体はすっかり忘れていたので、二度目でも十分…

花火の終わり

故郷で毎年8月上旬に開催される花火大会が、今年は荒天で延期になった。代替日は約1ヶ月後の9月上旬だった。 当初の日程は乗船出張の直前であり、調査の準備などで忙しかったことと、感染対策でなるべく外出を避ける必要があったこととで、帰省を兼ねた観覧…

押し入れのヘビイチゴ

祖母の家は真赤な実に囲まれていた。 祖母はそれをヘビイチゴと呼んでいた。幼い頃はなんとも思わなかったが、今思えばなんとも毒々しい名である。 わずか1センチほどのその実を、祖母は丁寧に摘み取っていた。何とは無しに、私もよくそれを手伝った。 採っ…

感想33『文字禍・牛人』

53. 中島敦『文字禍・牛人』(角川文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 図書館シリーズ。短編六編が収録された一冊だ。著者の代表作といえば『山月記』だろう。山月記が虎への変身なら、収録の『狐憑』は憑依、『木乃伊』は輪廻、『文字禍』は精霊、『牛人』は化物の…

感想32『陽だまりの彼女』・『午後の曳航』

51. 越谷オサム『陽だまりの彼女』(新潮文庫) 再読したい度:☆★★★★ 見慣れない本が私の棚に入っていたので、おやと思い手に取った。妻のものが本棚の整理中に紛れたことを数ページ読んで確信した。 学生時代に互いに恋心を抱いていた男女が、取引先との打…

計算の奇妙な空想

先日、食塩水の濃度云々の数学問題を解く機会があった。「濃度」の問題とくれば「しみずの表」を書くということが、私には刷り込まれている。しみずの表とは、し(塩)、みず(食塩水)、の(濃度)の3項目について、混合や変化の前後の値を埋めていったもの…

くせのはなし

人には必ず一つや二つは癖というものがあって、それらはあまりにも自分の言動に溶け込んでいるため、往々にして自分自身では気づかないものである。言い換えれば、癖は他人に指摘されて初めて気づくことがほとんどだ。しかし、普段ひとりになることが多い空…

友達百人

先日、私がいつものように、何か私の異常っぷりをありのままに見せつけたとき、そんなんだから友達が少ないんだ、と妻に言われた。そして息子の名を呼び、〇〇は友達百人作るんだもんね、と語りかけた。九ヶ月の息子は、なんのことやらただニヤけているだけ…

感想31『君の膵臓をたべたい』

50. 住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ 本ブログを読んでくださった方から「私が再読したいと思うのはこの本だけ」と紹介いただいた一冊。ほか、何人かの友人知人からも勧められたことのある本だ。悔しいが、面白かった。悔し…

ソリの記憶、タライの笑い

昔、おそらく幼稚園にも通う前の話だ。冬、雪国が故郷の私は、友達と駐車場で雪遊びをしていた。 当時はアパート暮らしで、私は一階、その友達は二階に住んでいた。アパートは、駐車場から階段を五、六段ほど上がって一階の居室が並ぶ廊下にたどり着くような…

声を上げることの大切さ、無力さ

意見を述べることは重要である。学生時代、板書をルーズリーフに書き留めていた。物理や数学では図を描くし、また式も微積分やら行列やら縦幅が必要になることが多かったので、罫線のない、無地のルーズリーフを愛用していた。大学生協にはそれが売っていな…

感想30『元気が出る俳句』

49. 倉阪鬼一郎『元気が出る俳句』(幻冬舎新書) 再読したい度:☆☆☆☆★ 壮大だったり前向きだったりして元気の出る俳句が紹介されている。食べ物、動物などのテーマ別に十二の章に分けられているので、好みのものをピックアップして鑑賞することも可能だ。…

3000円60回払いという生き方

ゴールデンウィークは出張の代休を利用して7連休にした。そして、初日から6日間を妻と私の実家への帰省に費やした。交通手段は息子が飽きたり暴れたりしてしまったときのことを考えて、レンタカー。ワイルドで狂気的なドライブ、怒りのデスロード、死のカー…

感想29『海賊の世界史』

48. 桃井治郎『海賊の世界史 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで』(中公新書) 再読したい度:☆☆★★★ 図書館シリーズ。海に出る男として、そして『ワンピース』マニアとして、この歴史を知らぬわけにはいかない。高校では世界史を選択していたが…

最も幸せ

友人が結婚する。一週間ほど前に、婚姻届の証人のサインを頼まれた。数年前に結婚する際、私が証人を願いしたのは何を隠そう彼だったから、遂に私にも出番が来たか! と喜ばしい気持ちだった。そして先週末、サインをしてきた。字の下手くそな私は、元来その…

感想28『蛇を踏む』・『晩夏のプレイボール』

46. 川上弘美『蛇を踏む』(文春文庫) 再読したい度:☆★★★★ 図書館で借りた本。第115回芥川賞受賞作。表題作を含む3作を収録しており、どれも好みがはっきり分かれそうな物語だった。 表題作は、踏んだ蛇が人間の姿となり、家に住み着いてしまう不思議な世…

「受けること」と「発すること」

半年ほど前、諸事情により2ヶ月間くらい一人暮らしをしていた。だからといって変わったことはほとんどなく、普段通りのだらりとした生活が続いた。唯一、特別だったのは、自炊をしたことだろう。朝は納豆やめかぶをご飯にぶっかけるだけなので手間はないが、…

宮崎・鹿児島出張記

先日、宮崎県・鹿児島県に出張した。目的地までの道中、何箇所か立ち寄ったところがあったので、旅行記としてここに綴りたい。はじめに断っておくが、以下は私が現場で見聞きしたことを主体にまとめている。必ずしも情報の裏を取っていないことに注意して欲…

ソニックおじさんの杖に発電機を仕込んではどうだろう

今回は表題のとおり、ソニックおじさんの杖に発電装置を仕込んではどうだろう、という提案と考察をしたいと思う。そのためにはまず、ソニックおじさんとは何者かという説明が必要だろう。 ソニックおじさんは朝、我が家の近所に現れる老人だ。決まって、駅の…

気づけば元気

仕事で疲弊しきった友人と落ち合って、近所のスーパーに立ち寄ったときだ。 いつものように酒を選び、つまみのコーナーに向かった。 「最近、ナッツとドライフルーツにはまってるんだよ」 「俺も」「いや俺のほうが」「うまいよな」「うむ。それだけあればい…

感想27『悲しみよ こんにちは』

45. (著)フランソワーズ・サガン(訳)河野万里子『悲しみよ こんにちは』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 再読シリーズ。十代の少女セシルと家族、友人たちとの一夏の経験を描いた作品。早くに妻に先立たれ、以来刹那的な恋愛を好む父と、それを許容す…

日本酒4『無手無冠 酒槽一番汲み』・『亀泉酒造 上撰辛口 土佐の地酒』

ろばた焼仙樹 本店〒780-0052 高知県高知市大川筋1-3-47 088-823-7769地図や店舗情報を見るPowered by ぐるなび[{"@context":"http://schema.org","@id":"https://r.gnavi.co.jp/70znetpp0000/","@type":"LocalBusiness","address":{"@type":"PostalAddress"…

船乗りは、若い

昨年末に、航海中の時間と記憶の異質性について触れた(2021年の振り返り)。海と陸とでは、空間はもとより時間にも大きなギャップがあるような感じがする。そして、その結果として、その間には記憶の乖離のようなものが生じる。船上の生活は、陸上の”日常”…

座右の銘候補を考える

年始に「座右の銘を考える」というのを目標として掲げた(2022年の目標 )。これから数十年、ひいては人生(そういうと仰々しいが)をかけて達成すべき目標をもっていても良いと考えたのだ。思い立ったのは、とある組織の新任職員の紹介ページを眺めていたと…