59. 伊集院静『冬の蜻蛉』(講談社文庫)
再読したい度:☆☆☆☆★
あっさり読み進められるけど味わい深い、7つの短編が収録されている。料理に例えるなら、なんだろう、塩鍋だろうか。読みやすいのは、語りが淡々としているのと、定番の型に当てはめられる話がほとんどだからだろう。もちろん、その型におさまりきって縮こまっていないところが面白さであり、味わい深さである。ただ、結末が明確に描かれず、シメの炭水化物がしっかり欲しいかなという印象のものもあった。
優劣付け難い作品たちであるが、あえて一番のお気に入りを挙げるなら、『チルドレン』だろうか。いい年の男が初恋の女に幻想を抱いて遠く訪ねてきたところ、ぼったくりバーに連れ込まれてしまうのだが、実は……。
60. 伊集院静『峠の声』(講談社文庫)
再読したい度:☆☆★★★
図書館シリーズ。『冬の蜻蛉』が面白かったので借りてみた。珍しく同じ著者の作品を続けて紹介する。さらりと読めるのに違いはないが、こちらは『冬の蜻蛉』よりも堅い感じがした。全5編が収録されている。読後、どれも切ない気分になる印象だった。なんだろう、食べやすいけど冷たくて、きゅうりがさくっと刺さる、冷やし中華?
こちらでもお気に入りを挙げるとすれば、『冷めた鍋』だろうか。切ない話ばかりの中、これは少し光がみえる。気の合わない父と息子の仲が改善していきそうで、前向きだ。