ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

2017-01-01から1年間の記事一覧

気が付けば全力で朝

「物語」は美しく整然としていなければならない。 その一方で、望むと望まざるとに関わらず、その創出の場、あるいは起源たる「現実」は一般に至極混沌としている。 七番目の曲が終わるとき、私は目的の建物の前にいた。 七番目の曲が終わるとき - ライ麦畑…

七番目の曲が終わるとき

痛いほどの寒さに身が縮む。シルバーホワイトの空には雪がちらついていた。縮んだ体は何か悪いことをして、咎められるのを恐れているようで、外界から自分を切り離そうと、右手の親指は自ずと二つ並んだ丸いボタンの一つを素早く二度押していた。イヤフォン…

好きな気持ちはしょうがない

いつだったか、東京を訪れた際に抹茶ジェラートが有名なお茶屋さんに行ったことがあった。 そこではジェラートの抹茶の濃さを好きに選べて、一番濃いのを選ぶと、それはなんと世界一濃いらしいのだ。 同行者からこの店の話を聞いた瞬間、これはもうこの店に…

幸福な言の葉

現状に満足しているひとは発言の必要がない、というようなことをどこかで見かけた。平穏な幸福。全くその通りかもしれない。 私がうだうだと此処に駄文を書き連ねるのもひとつの表現であり、それはおおよそ不幸や不満、それに伴う哀愁などによって駆動される…

うねりの中

モウロが自らの力に気づいたのは、もうずっと昔のことだ。 荒野にぽつんと立つ枯れ木の上で、少し遠くの家々を眺めているときだった。 ほうら、またあの二人が腕比べをはじめたぞ。あそこ、あの窓の大きな家の前だ。今日はどうやら剣らしい。弓はあのノッポ…

岩城に笑いの花が咲く

今年の夏、友人らと4人で秋田県は由利本荘市岩城を旅した。 そのとき、悪ふざけが過ぎて私は手の込んだ「旅のしおり」なるものを作成し、その一部として「でたらめ観光案内」を書いた。 今回は、それをそのままお読みいただいて、岩城の魅力を皆様に是非知…

扇動の聖女

よく働いた5日間、その中のある12分間のお話である。 年に2度開催される我々コミュニティの大きな会合が、今年の秋は12年ぶりに私の住む都市で行われた。 そして我々は、この会合を運営する立場となった。 私なんかは下っ端なので、荷物を運んで会場設…

さよなら備忘録

久々の投稿である。 最近は他にやらなければならないことが多くて、書きたいことはあるのにそれについてあまり考えられない、というなんとも欲求不満な生活を送っている。 一か月記事を投稿しないと、ブログ管理側から通知が来る。 「そろそろ次の記事を投稿…

日曜は中華の香り

季節の変わり目、寒暖差激しい今日この頃。 友人が風邪をひいたらしい。 風邪には豚や鶏よりも牛肉が良いらしいよと教えたら、牛丼大盛り豚汁セットを食っていた。 それだけ食えればたぶん大丈夫。それに、おまけで豚まで摂取している。 最近は馬鹿になって…

何度でも、君の歌声

そのフェスは”ジャズフェス”というのに案外ジャズ奏者のパフォーマンスは多くない。 数年前に友人Sに連れられて行ったのが最初だった。 当時はまだジャズにそれほど関心がなく、ただただ「なんだかカッコいいなぁ」と思ったり、ひたすら「ビールうめえなぁ…

近づく窓から見えるのは

久々に青空の広がる晩夏のある午後。 今日はいい天気ですね。地上5階のビルの廊下を一緒に歩く後輩が話し掛けてきた。 そうな、最近ずっと雨だったもんな。淡々と、だが心から彼の言葉に頷く。 あのビルは何なんですかね? 廊下の一番向こう側、遠くの窓か…

不完全の美学

*再び旅行記はひとやすみ 高校時代,私はバドミントン部に所属していた。 顧問であった男性数学教師はバドミントン未経験者で,練習にもほとんど来ず,公式戦のオーダーなんかも「キャプテンに任せるわ」といったふうで,顧問のわりにあまり関わりはなかっ…

京都を盗め(3)

daikio9o2.hatenablog.com daikio9o2.hatenablog.com 夕刻,我々はハンバーガーショップにてコーヒーをすすっていた。 京都国立博物館ではこれといった情報は得られなかった。手がかりとなりそうな仏像の展示スペースは完全改装中であり,係員の目を気にしな…

小人の国

* 京都旅行記(旅行記って言っちゃった)は一時中断 何事もあまり長続きしない私であるが,運動不足解消のため週1回5 km 程度のランニングを始めてしばらく経つ。 この習慣を利用して,お盆休みの帰省中に近所を少し巡ってみることにした。 当時部活や授業…

京都を盗め(2)

daikio9o2.hatenablog.com 目的には二十分程で到着した。 「ここが三十三間堂だな」 「ああ。実は一度,ここには別の仕事で来たことがある」 相棒のSは自転車を駐輪場に停めながら言った。 そうか,と相槌を打つだけにして深く詮索はしない。この世界の相棒…

京都を盗め(1)

平凡な泥棒と優秀な泥棒の一番の違いは何か? 手先の器用さ,機敏さ,強靭さ,賢さ──。確かにそれらも重要だろうが,実は全て不正解である。 平凡な泥棒と優秀な泥棒の決定的な差,それは「事前調査力」だ。 完璧な下調べ無くして完璧な計画は無く,すなわち…

正体見たり

皆さんこんにちは。 春ですね。春といえば,桜ですね。 風流ですね。桜。 ここで桜に関する歌を一首。 屋台店 あめかわずなく この声と ついに散りしは 徒桜かな 解説をつけます。 屋台の立ち並ぶ道を歩いていると,ぽつぽつと雨が降り出し,何処かで蛙も鳴…

過去の共有

1か月以上前になるが,とある試験を受けた。 その科目中には一般教養も含まれていた。相当前に受けたセンター試験のような内容に加えて,高校では選択していなかった政治経済やら日本史やら生物やらも勉強した。 そのオベンキョウ中にふと考えたことについ…

べからず使ふべからず

想像しないでください ── 真っ青な空,白い雲,そしてどこまでも続く大海原を。 梅雨だというのに私の住む地域では雨があまり降らない。ただジメジメと蒸し暑い。勘弁してほしい。 雨の中をバイクで爆走した記憶が遠い。それくらい雨が降っていないというこ…

追想と捏造の狂想曲

いつの記事だったか,記憶は一番に「嗅覚」と,その次に「聴覚」と密接に関連しているという話をした。 嗅覚について思い当たることも多いが,最近は音楽に詳しい友人に鼓舞されていろいろと聴くようになって,聴覚と記憶のつながりを感じることが多い。 最…

悪夢を君とひとりで

最近,寝つきは悪いし睡眠の途中で何度も目覚めるし悪夢を見るしで,睡眠に希望がもてない。 せめて夢の世界くらい──と思うものだが,ここは発想の転換だ。特殊なストーリーの夢は記録に残しておこう。何かの役に立つかもしれない(何のだろう)。 まずは,…

ゆけゆけアマゾン調査隊

先月,極めて真面目な研究集会であるにも関わらず,「○○フェスタ2017」と銘打たれた,お洒落で素敵な集まりに参加してきた。 「我々の分野はこれからどうなってしまうのか」 「この厳しい状況をどう生き抜くべきか」 と,内容はなかなか深刻なものが多かった…

お手本はずっと昔に置いてきた

久々の投稿である。 良い報告は全く無いが,迫られていた用事はひと段落,書きたいことが初雪程度に積もっている状況だ。 今回は,以前の記事(習字セットの筆は今 - ライ麦畑で叫ばせて)に深く関連している。 先の記事を要約すると, ”あるアーティストの…

巻物ブルースはいかが

まきもの【巻(き)物】㊀書画などを表装し,軸をつけ,巻き収めるように仕立てたもの。巻き軸。(㊁,㊂と続く) ──新潮国語辞典ー現代語・古語(1995) ブルース(blues)十九世紀に米国の黒人の生んだ歌曲。非ヨーロッパ的な音階はジャズの基盤となっ…

僕は肉,君は魚

好きな食べ物ランキングトップ5が「ニワトリの肉」,「桃」,「ウシの肉」,「ブタの肉」,「揚げ出し豆腐」(2017年5月現在)である超攻撃的やわらか肉食系男子の私だが,先日,食堂で偶然「サバの塩焼き」を食べて,「魚ってうまいんじゃねえか」と…

彼は地球防衛隊

ある蒸し暑い夜のことだった。私は暑さに悶えながらも眠りに就こうと奮闘していた。吹いているのかもわからない微風を求めて,家じゅうの窓という窓を全開にしていたが,涼しい風が私を撫でる心地よい瞬間は一向に訪れない。それでも私の眠気が優勢とみえ,…

閻魔が見てるそんな夜

2015年6月下旬,私は美しき街プラハにいた。 一週間ほどの滞在にもかかわらず私の用事は最終日だけであったので,それまでは緊張を押し殺すように,敢えて浮つき散らして,遊び散らかしていた。仕方なしに観光に狂っていた。本当である。緊張のし過ぎは…

美しさは崩れる運命にある

2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎氏は,授賞理由でもある「自発的対称性の破れ」というものを,「倒れる鉛筆」をみてひらめいたという。 私のゴミ屑ほどの知識で「自発的対称性の破れ」を説明すると,以下のようになる。 これまで多くの物…

ここにある

最近,お勉強が楽しい。 必要に迫られて,今まで真面目に学んでこなかった生物やら経済やら歴史やら,諸々の科目と向き合う日々なのだが,これが思いのほか楽しい。これまでずっと1つのことに凝り固まって視野が狭くなっていたのだろう。人間の飽くなき知的…

大人への道を歩いているか

先月のうちに書きたいと思っていた諸々のことが,新年度の開始とともに何処かにぶっ飛んでしまった。人は忘れるものだ。 私もいよいよ延ばしに延ばした人生の決断を迫られつつあり,稚拙な文章をこねくり回す時間は減る一方である。それでも折角始めたことで…