ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

2017-01-01から1年間の記事一覧

国境は別れの顔

ついにこのときがきた。 このタイトルを使わせていただくときが。 ルパン三世TVシリーズのタイトルが極めて格好良くて,それらに鼓舞されて何度か拙文を書いてきた。 しかし,今回は順序が逆で,表題の「国境は別れの顔(TV第2シリーズ第58話)」が内容を…

ノスタルジーの行方

所用のため滞在中のハワイはホノルルにて筆をとる。 到着初日だが,もう日本が恋しい。私の準備不足が全ての原因ではあるが,率直にいうと,やはり言語の壁は大きいなと思ってしまう。皆さん必死に理解しようと努力してくれるので,余計に悲しく,そして申し…

悲しみのまち

抜けるような空が眩しい。 早朝の陽射しが光る石畳の道沿いには,落ち着いたベージュの壁に鮮やかな赤い屋根の家々が整然と立ち並んでいた。 まちの中央に位置する広場には,モーニングコートやドレスを身に纏った老若男女が群れをなしていた。広場には空缶…

光と弾丸

皆さんは,本を読みながら,映画を見ながら,講演を聴きながら,メモをとるだろうか。 旅先の建物,景色,食べ物,全てを写真におさめるだろうか。 私は,どちらもあまり積極的にするほうではない。 それでも,「あそこで食べたアレは美味しかった」とか,「…

病は病

かねてよりスーパー健康体と自負してきた私の身体も,加齢と不摂生から何かの危険に脅かされつつあるのかもしれない,と,最近不安に思うことが増えてきた。 この前,私の参加しているあるプログラムの同期達と飲む機会があった。 その中の一人が乾杯に際し…

時間軸の交錯

時間とは,物理学における互いに独立な7つの基本単位のうちの1つである。 私の携わっている地球物理学においても例外ではなく,長さ,質量,温度と併せて最もよく使われる単位のうちの一つだ。 そしてなにより,物理学に限定しなくとも,我々は今この瞬間…

あの日と同じ風

マストになびく信号旗に憧れていた。 ずっと昔の話になる。私は海沿いの小さな町に生まれた。そろそろと細く弱々しい黒煙を上げる工場が幾つかと,そこではたらく者たちの住まい,あとは漁で生計を立てる世帯がちらほらとあるだけの町だ。 生まれ故郷の記憶…

生存の道は一つ

結婚式とは,煌びやかで絢爛で眩しく,幸せに満ち溢れたものだった。 この類のモノへの抗体をもたない私にとって,それは目を瞑ってしまうしまうほどに神々しく,いささかおぞましくさえ思えて,汗の滲む類の夢のように浮世離れしたものであった。 1年前の…

もう一度,あなたの舞を

年末年始を実家で過ごした。 二人の弟は,偶然にも私と同じ町に進学してきたから,時々こちらで会うこともあるのだけれど,両親,そして父方の祖母とはお盆に帰省したとき以来の再会だった。 家に着き,居間の戸を開けると,そこには祖母の姿があった。座椅…