ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

2020-01-01から1年間の記事一覧

海はいさ空には歌は生まれない

仕事柄、長期で航海に出ることがある。航海中は週から月の単位で陸を見ない。周りは海と空だけ。 波風一つない水面に雲が綺麗に反射して見えたり(このような静かな海の状態を「べた凪」と呼んでいる)、珍しい鳥やイルカなんかが見えたりすると一寸盛り上が…

野生の「殻なしガニ」が現れた

2年前の今頃、私の心はマインドマップによって丸裸にされた。 daikio9o2.hatenablog.com 結果として、私は深層心理でカニを欲している一方、殻をむいて食うのはとても面倒臭いと思っていることが明らかとなった。何処かの誰かが、「殻なしガニ」など開発し…

感想10『Q&A』・『我らが隣人の犯罪』

21. 恩田陸『Q&A』(幻冬舎文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ ある大型商業施設で起こった謎の大量死傷事故。原因は火災なのか毒物なのかテロなのか。現場にいた客たちは奇妙な人々の目撃を語るが、証言には食い違いがあり、核心にはなかなかたどり着かない。題…

すぐカッとしてしまうあなたへ ──パブロフ流 冷静術──

このご時世、公共の場でくしゃみをするのは躊躇われる。だから、出そうでどうしようもないとき、私はこっそりそれを止めている。やり方は簡単で、くしゃみが出そうになって口が開いた瞬間、鼻の下のくぼみのあたりをぐっと押すだけだ。押し方によっては往年…

コロナのせいにしてみるが、綺麗なものが怖いだけ

会社の最寄駅から地上へと出る階段に、輪ゴムの束が落ちていた。二十個くらいがひと塊となり、その周りには二、三ずつの輪っかがちらほらと散らばっている。この量の輪ゴムがこんなところに落ちている事態に些かの疑問を抱きつつも、新品同様のそれを汚すの…

感想9『ユージニア』・『残虐記』

100記事目(はじまりの99記事を振り返る)の反省を踏まえて、今回から記事のタイトルをみれば読んだ本がわかるようにした。合わせて、これまでの感想集もタイトルのみ変更した(感想1『五分後の世界』・『私の家では何も起こらない』・『斜陽・パンドラの…

一泊二日、世界一周の旅

*この記事の内容の多くは虚構であり、史実とは異なる記述が含まれています。 先日鬼怒川温泉を訪れた際、東武ワールドスクウェアに寄って世界一周旅行をしてきた。今回はその旅をちょっとした知識を交えて振り返ってみたい。 1 自由の女神像 自由と民主主…

お楽しみは最後まで

最近になってようやく、『楽しみ』という感情が人並みに芽生え始めた。この夕食は唐揚げで締めようとか、次はあの曲を熱唱しようとか、 少し先の未来に対する高揚感は無いわけではなかった。そういったものを「短期的楽しみ」と呼ぶのなら、これまでの私には…

feel my soul

泣きつかれてたんだ 問いかける場所もなく 迷いながら つまずいても 立ち止まれない 風呂場で何気なく口ずさんでいたのはYUIの楽曲『feel my soul』だった。 風呂場と便所というのは私にとって世間から切り離される特別な空間で、沈んでいるときは「はぁ、死…

はじまりの99記事を振り返る

100記事目である。ブログを始めたのが2016年11月だったから、約4年での区切りとなった。平均すると1ヶ月に2記事程度の投稿だ。統計的にみれば意外と悪くないペースのように思えるが、1文字も書かない月もあれば、反対にひと月に5つも6つも公…

感想8『PK』・『今はじめる人のための俳句歳時記 新版』

17. 伊坂幸太郎『PK』(講談社文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ これぞ伊坂というような、バラバラだったピースが綺麗にハマっていく快感──! 風な話だと思いきや、考え出すと時系列や登場人物がうまく噛み合わないちょっと不思議な一冊。三つの中編が、著者の…

麺をすするとき、幸福と不幸がいつも背中合わせでいる

1999年12月31日、私は自宅で一家団欒を楽しんでいた。 片付けないままのクリスマスツリーの電飾を灯し、『ゆく年くる年』で除夜の鐘を聞く。そんな不釣り合いなどお構いなしに、小学生の私と幼稚園児の弟たちはこれまでとは少し違った年越しに心躍らせていた…

キウイのTVCMで泣く

最近涙もろくてダメだ。狙ってくるものには斜に構えているから、お涙頂戴の映画や番組は我慢できる。しかし、こちらが身構えていないときにせめられると涙が出てしまう。 遭難した小学生が保護されたニュースで泣き、ゲームでボム兵が爆ぜて消えたことに泣き…

信じる心ってなんですか?

数ヶ月前から愛でていた金魚草という花が、数日前に二、三咲いた。 一度は全部枯れてしまって、開花の時期もとっくに過ぎていたのだが、日なたを見つけては運び、剪定もこまめにやって世話を続けていたら、立派に咲いてくれた。一縷の望みを抱きつつ、愛し続…

俳句4「十七音の使い方」

今回は基本1「五七五のリズム」に関連して、もう少し具体的に十七音の使い方を考えてみたい。内容は「句またがり」、「十二音を考える」の二つだ。 句またがり 句またがりとは、五七五の定型を崩す詠み方であり、ここでは、リズムとしての区切れと、意味の…

好きと言っていい

友人の文章(それでも好きだと言えるのか )を読んだ。良い文章には考えさせられるものだと常日頃思っているが、今回もその例外ではなかった。 読んでもらえるとわかるが、彼の文章は大きく三段構成となっている。まずは『好きの公言』について。これを「好…

謎が嫌いなんだ

昔からテーブルが汚れるのが嫌だった。家族で食卓を囲んでいるとき、食べ物をこぼしたままにしておくことが許せなかった。汁が一滴垂れただけで、半狂乱になって拭いていた。 別に潔癖というわけではない。むしろ、どちらかというとズボラなほうだろう。一人…

シソンヌ「密室ゲーム」の女はあらぬ吊橋を渡り、そして破壊する

今回はお笑いコンビ「シソンヌ」のネタ『密室ゲーム』について書きたいと思う。『密室ゲーム』は芸人同士がネタを交換するという番組の企画から生まれた。シソンヌ同様コントを得意とするコンビ「チョコレートプラネット」の持ちネタをアレンジしたものだ。 …

俳句3「切れ」

今回は最後の約束「切れ」についてだ。三つの約束の中で最も掴みどころのないのがこの切れだと思う。 切れは余白や響きをつくって感動や広がりを表現する。これを上手に用いることによって、俳句に良いリズムが生まれる。また、効果的な内容の省略によって読…

俳句2「季語」

俳句の表現力を大きくする二つ目の約束ごとが「季語(季題)」である。一つの俳句には基本的に一つの季語を入れる必要がある。早速、例句をみてみよう。 咲き満ちてこぼるる花もなかりけり 高浜虚子 この句の季語は「花」、春を表している。空は晴れ渡り花は…

俳句1「五七五のリズム」

俳句は「わずか十七音で作られる世界で最も小さな詩」と表現されることがある。では、世界最小といわれる俳句が、何故あらゆる情景を美しく表現できるのか。俳句の表現力を支えているのは、大きく分けて三つの約束ごとである。それは「十七音」、「季語」、…

俳句0「俳句との出会い」

半年ほど前に、友人たちとの話をきっかけに俳句に興味を持った。私はすぐに入門書を買い、覚えたての知識を鼻にかけ、数える程の句を詠んだ。 それからしばらくは、気が向いたときに付け焼き刃で言葉を羅列するだけだったが、最近、俳句への興味が再燃した。…

「お決まり」について

まず、頭を一発撃つ。よろめいたところを蹴り飛ばし、倒れたところをナイフで切りつける。これで終わりである。おっと、安心してほしい。現実の話ではない。ゲームの世界の戦い方の話である。まあ現実でも、お前なんかマグナムで一発だからな? と心の中で銃…

祖母への恋文

祖母が旅立ち、まもなく四十九日となる。実家から無事に納骨したとの連絡があった。 葬儀で祖母に送った別れの言葉。公にするか否か迷ったが、私の言葉をきいて「自分の家族のことも思い浮かんだ」と言ってくれた人がいたので、そうして家族を思う人が一人で…

感想7『螢川・泥の河』・『永遠の放課後』

今回も早速いきます。ネタバレにはご注意ください! 15. 宮本輝『螢川・泥の河』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ 『螢川』は芥川賞、『泥の河』は太宰治賞受賞作である。どちらも、主人公は少年。彼らの体験や心の動きが、彼らの目の高さで、真正面から…

感想6『金閣寺』

今回は一作品に集中する。良い文にはよく考えさせられるものだ。 * ネタバレにご注意ください! 14. 三島由紀夫『金閣寺』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆☆☆ 疲れた。強固な論理的秩序と膨大な知識量に何度も負けそうになった。数年前の私なら途中で読むの…

有言不言実行、そして現状打破維持

不言実行という言葉が好きだ。これはかつて出会った教師の言葉によるところが大きく(「伝える」の上限 )、その師と同様に有言実行という言葉が嫌いでもある。「不言実行とは目標を口に出さずに実行することだ」という説明を見たことがあるが、それは少し違…

人ばかりの消えるまち

年末年始を実家で過ごした。食って、飲んで、寝る。それだけ数日も続けていると、最近の運動でせっかく引き締まってきた腹がたちまち膨らんでしまった。さすがに身体が心配になって、少し近所を散歩してみることにした。 小雪舞う中を一時間ほど歩くあいだに…