ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

感想9『ユージニア』・『残虐記』

 

 100記事目(はじまりの99記事を振り返る)の反省を踏まえて、今回から記事のタイトルをみれば読んだ本がわかるようにした。合わせて、これまでの感想集もタイトルのみ変更した(感想1『五分後の世界』・『私の家では何も起こらない』・『斜陽・パンドラの匣』・『虹彩・太陽をうつすもの』 ほか7記事)。さらに、全ての記事に五段階評価で「再読したい度」をつけた。未来の自分へのオススメ度のようなものだ。気になる本に関する記述があったら、過去の記事にもぜひ目を通してみてほしい。

 

19. 恩田陸『ユージニア』(角川文庫)

再読したい度:☆☆☆★★

 ある一家の祝いの席で起こった親族、近隣住民らを巻き込む大量毒殺事件。この事件にまつわる人々の残酷で奇妙な物語が、インタビューや会話、独白、記事の抜粋など、さまざまな形式で語られていく。

 事件の数少ない生還者であった少女。彼女が大学生となって事件を調べ上げた論文の資料が、書籍として出版されることになる。その名も『忘れられた祝祭』。真犯人に言及するでもなく、ただ精緻に記述された事実のなかに、彼女はどんなメッセージを残したかったのか?

 事件のもう一人の生存者である盲目の少女。彼女はまるで物事が「見えて」いるかのように周囲を事細かに感じとり、独特の感性で心情を表現する才女だった。誰しもが憧れる彼女が求めた真の理想郷、そしてその結末はと?

 事件の犯人とされる青年。独特な世界観と知性をもち、近所の子供達からも好かれる彼が、悲惨な事件を引き起こした経緯とは?

 この事件に囚われた一人の刑事。彼が唯一、「刑事の勘」というものを認めざるを得なかった直感が、事件の真犯人を示す。だが、いくら調べても決定的な証拠がみつからない。彼が人生をかけて求めた真実の行方は?

 最後まで読み終えたら、もう一度冒頭の数行を読んでほしい。文章にちりばめられた真実の破片の在り処をもう一度確かめたくなるはずである。──ただ、再読するには少々長い作品で、私自身もまた一から読むのは躊躇っているところだ。

  

20. 桐野夏生残虐記』(新潮文庫

再読したい度:☆☆☆☆★

 人気女性作家が一編の原稿と手紙を残して失踪を遂げる。その原稿の中には、かつて世間を騒がせた少女監禁事件の被害者が彼女自身であることが告白されていた。一年にわたる奇妙な監禁生活、そして解放後の少女の苦悩と異様な成長が、少女の両親や友人、犯人の男、男の職場の上司達、警察、検事など、登場人物との歪んだ関係の中で紡がれていく。

 この本は「女の失踪を編集者に伝える夫の手紙」と「女が残した原稿の内容」、そして「夫が編集者に宛てた二通目の手紙」で構成される。その一部には、女の原稿に他の登場人物が考察を加える記事もある。この「小説の中の小説」というスタイルが、読者の想像力を刺激し、また「真実」を知りたいという欲望を駆り立てている。

 物語の登場人物は皆、静かな「残虐性」をもっている。少女は、その残虐性から逃れるために『妄想の世界』を育んでいくのだが、この想像力が少女を急速に大人し、またある意味で残虐にさせる。妄想が彼女の支えとなり、ゆえに妄想が消えた瞬間、彼女は残虐な過去の記憶に襲われる。危なっかしい彼女の強さが心配になり、ページをめくる手が加速する。「生々しさ」と「虚構」が共存したような奇怪な感覚を味わいたい方は、是非一度手に取ってみて欲しい。