ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

あの日と同じ風

マストになびく信号旗に憧れていた。 ずっと昔の話になる。私は海沿いの小さな町に生まれた。そろそろと細く弱々しい黒煙を上げる工場が幾つかと,そこではたらく者たちの住まい,あとは漁で生計を立てる世帯がちらほらとあるだけの町だ。 生まれ故郷の記憶…

生存の道は一つ

結婚式とは,煌びやかで絢爛で眩しく,幸せに満ち溢れたものだった。 この類のモノへの抗体をもたない私にとって,それは目を瞑ってしまうしまうほどに神々しく,いささかおぞましくさえ思えて,汗の滲む類の夢のように浮世離れしたものであった。 1年前の…

もう一度,あなたの舞を

年末年始を実家で過ごした。 二人の弟は,偶然にも私と同じ町に進学してきたから,時々こちらで会うこともあるのだけれど,両親,そして父方の祖母とはお盆に帰省したとき以来の再会だった。 家に着き,居間の戸を開けると,そこには祖母の姿があった。座椅…