136. 秋元雄史『芸術の価値とは何か AIが奪い尽くすからこそ、アートに"解"がある』(中公新書ラクレ)
再読したい度:☆☆☆★★
現代アートの事例を中心に、芸術の価値とは何かを紐解いていく一冊。ここでも前回紹介の一冊(人新世の「資本論」)とリンクするかのように、「資本主義」がキーワードになる。
まず、「現代アートとはなにか」について。現代アートより前の美術は、既存のスタイルや価値を否定しながら、新しい技法や表現を模索することで発展してきた。しかしそのスピードが上がりすぎて、美術を読み解く「美術史」が終焉を迎えてしまった。進化論的な造形美術の見方が終わりを迎えた21世紀以降、アートは社会そのものを土台に表現の方向性を模索し始めた。これが現代アートである。この「社会において無限に新しいものを追い求める」メンタリティが、「利益を出し、資本を増やし、再投資して無限に利益を追い求める」資本主義社会にフィットし、現代アート市場は拡大し続けている。
社会を舞台にする現代アートには、こうした資本主義に「抵抗」する作品もある。例えば「キャンベル・スープ缶」という作品は、大量生産・消費の象徴であるスープ缶の絵をひたすら並べたものである。中世以降、キリスト教の聖人たちを延々と描き続け「神」を讃えてきたアートは、現在、資本主義(の象徴たるスープ缶)を「神」として崇めている。なんとも皮肉的だ。
一方、アートを利用して再興を図る地方都市の例は興味深い。彼らは。「そこに暮らす人々にとって魅力的な街をつくること」に徹し、成功している。グローバル化を推し進める資本主義と逆行した、徹底した「ローカル化」である。アートには、一度途切れてしまった歴史の線を結び直す力がある。こうした「魅力的な」取り組みをしていれば、人は自然とそこに集まってくるのだ。
資本主義社会においては、「使用価値」のないものほど価値が上がってしまうことがある。アートはその好例といえる。多くの作品は長い時間をかけて再評価され、とんでもない価格がつくこともある。そして、「高額アートを所持していること自体が知性・経済力・美意識を可視化する記号となっている側面がある。
優れたアーティストとは、「過去の作品のテーマを引き継ぎながら、全く新しい視点を盛り込むことで、作品の意義やメッセージをさらに深めていく」ことのできる人である。「オリジナリティ」(と再現性)が重要な要素である。傑出したアーティストは、〇〇以前、以後のように時代を分断する力をもっている。
現代アートをみるときに「難しそう」と感じるのはなぜだろう。それは、「見慣れ」ていないからである。有名な巨匠・モネだって、当時は「未完成のスケッチだ」と批判されたそうだ。全くのオリジナルな作品であったから、人々は「見慣れ」ていなかったのだ。アートを深く理解したいなら、「見取り図」が欠かせない。「見取り図」とは、作品が生まれた背景や文脈、アーティストの思想や経歴、時代特有の社会現象や価値観といった、体系的な知識や情報のことである。アートを読み解くことは、知的興奮に満ち、新たな価値を発見できる楽しい作業である。
