ライ麦畑で叫ばせて

日常・数理・旅や触れた作品の留書・思考の道草 などについて書いています。

謎が嫌いなんだ

 

 昔からテーブルが汚れるのが嫌だった。家族で食卓を囲んでいるとき、食べ物をこぼしたままにしておくことが許せなかった。汁が一滴垂れただけで、半狂乱になって拭いていた。

 別に潔癖というわけではない。むしろ、どちらかというとズボラなほうだろう。一人暮らしのときはひと月やふた月掃除をしなくても平気だったし、今だって床にカバンや衣類を散らかして怒られることなどしょっちゅうだ。

 仲の良い友人が一人いる。彼とはほとんど休みのたびに遊んでいるようなものなのだが、喧嘩という喧嘩をしたことがない。腹が立つこともほとんどない。だが、一度だけキレかけたことがある。テーブルの汚れをめぐってのことだった。

 何故、私はここまでテーブルの汚れに執着するのか。そこまで気にならんという彼を論破するため、酔いで重たくなった頭を回転させ、何とか結論を導き出した。私は謎が嫌いなのだ、と。

 部屋の隅にホコリが溜まっている。何故か。掃除をひと月していないからだ。服が床に放置されている。何故か。私が脱ぎ散らかしたからである。

 では、テーブルにシミがこびりついている。何故か。何かこぼしたからである。では、何をこぼしたのか。わからないのである。これはあのとき飛ばした煮物の汁だな、なんて覚えていられない。そんな謎を生み出すくらいなら、わかっているうちに拭いた方が良い。

 調味料の蓋が半開きで冷蔵庫に入っているとする。これは許せないのだ。作り置きの保存容器の蓋が少し空いている。ダメだ、耐えられない。開いているせいで「何かわからないヤバイ菌」が悪さをして、食品の劣化を早めているのではなかろうか。

 この棚に入れてあったペンがない。どこにやったか知らない? ああ、捨てちゃった。これは良い。どこにやったか知らない? 知らない。これは大変だ。謎解きはディナーのあとで、なんて悠長なことは言っていられない。ディナーにペンなど必要なくとも、所在がわかるまで食事は喉を通らない。あるのがゴミ箱の中だとしても、わかればいいのだ。そしたらそのままペンくらい捨てますよ。

 ここの扉、壊れちゃったみたいなんだよね。就寝間際に妻が言った。ほう、何が原因だろう。どうやらここのネジみたいだな。ドライバーはどこだったかな。どこだ、どこだ! あったあった。ここを緩めて、ここを締めて、あれ、違うな。いいよ、もう明日にしようよ。ダメだ! 原因不明のままで寝られるか! こうなったら一から確認だ。いったん全部外しちゃおう。ココからはめて、次はココ。ねえ、寝ようよ。うるさい!

 こんなことをして妻に泣かれたことがある。比喩ではない。本当に泣いていた。そうなのだ。この性格、周りの人には本当に迷惑をかける。自分でも嫌になる。でも、私なりに納得しないとどうしようも無くなってしまうのだ。妻は、怖いよ、とも言っていた。そうか、怖いか──。ん、怖い? なんで怖いか説明してくれる? 眠れなくて迷惑なのはわかるよ? なんで怖い? いや、わかるでしょ、じゃなくてさ。なに、やっぱ怖くない? いやいや、怖いんでしょ? 理由は? 謎なのよ。気になるじゃんか。気になっちゃってもう寝れないじゃんか!