ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

feel my soul

 

泣きつかれてたんだ 問いかける場所もなく

迷いながら つまずいても 立ち止まれない

 風呂場で何気なく口ずさんでいたのはYUIの楽曲『feel my soul』だった。

 風呂場と便所というのは私にとって世間から切り離される特別な空間で、沈んでいるときは「はぁ、死ぬかな」とつぶやいてみたり、反対に気分のいいときは「ぷかりぃ〜」 と大声で歌っていたりする。

 YUIは中学生から高校生の頃大好きだった歌手だ。当時の私はYUIGARNET CROWスピッツしか聴いていなかったといっても過言ではなく、その中でもこの『feel my soul』は繰り返し聴いた曲の一つであった。

 その日も風呂場で歌っていたのだから気分がよかったのかといえば、実はそうでもなかった。口ずさんでいて何故か悲しかった。歌詞や曲調をみても明るいとはいえないものの、過去の私を省みれば、この歌を歌って悲しくなるのは不思議であった。それに、長いこと遠ざかっていた曲だから、何故今になって突然口ずさんだのかも疑問だった。

 

 風呂上がりに見たニュースでは、亡くなった竹内結子さんの特集をやっていた。

 好きな女優は? といった会話は誰もが一度はしたことがあると思うが、そんなとき私が挙げる名前は仲里依紗木南晴夏や、竹内結子だった。悲しみに程度があるのかはわからないが、好きな女優の突然の死は、彼女から遠い存在である私にも、相応の悲しみを与えた。

 じゃあ好きなドラマは? という話になれば、『SPEC』、『TRICK』、『LIAR GAME』あたりは何度か見返しているので挙げる候補だろう。一方、今では内容はほとんど覚えていないのに、キャストや雰囲気が好きだったことを痛烈に覚えているドラマがある。竹内結子主演の『不機嫌なジーン』だ。ちょっと通な雰囲気を醸し出したいときは、この名前を出してみたりした。

 ニュースキャスターがフリップを見せながら、『不機嫌なジーン』は2005年冬の作品であったことを説明している。当時の自分を思い出してみる。中学生の自分が、部屋でこのドラマを観ている。たしか、竹内結子は大学で生物について研究していた。「仁子」という名前から、「ジンコ」とか「ジーン(=遺伝子)」とか呼ばれていたんだったと思う。生物学にこそ惹かれなかったが、このドラマは研究者というものに興味をもつきっかけの一つになっていたかも知れない。

 ぼんやりとした映像。「ジンコ」が年上の格好いい研究者の男に惹かれていく。いいところで、続きは次の週だ。エンディングの映像が流れる。そのときだ。これだ、と確信した。欠けていたピースがひとつ、その瞬間にはまった。

 このドラマの主題歌は『feel my soul』だった。YUIはこれがきっかけで一躍人気歌手となり、当時の私も擦り切れるまでCDを聴いたのだった。

 私はこの歌を風呂場で口ずさみながら、無意識に大女優の死とリンクさせ、悲しみの感情を生み出していたのかもしれない。いや、この歌を口ずさんだのがそもそも、無意識のリンクによっていたのだろう。そう考えれば全てに合点がいった。脳の回路はしばしば無意識のうちに予想だにしない出力をするという話はこのブログでもよくするが、今回もその類の現象に違いない。

 

I feel my soul Take me your way そうもがきながらも

きっとこのまま ずっと歩いてゆける

 YUIの楽曲『feel my soul』は、気持ちが落ちていたところ(=冒頭に載せた歌詞)から、自分の本当の感情に気づき(= I feel my soul)、すべきことを受け入れて、少し前向きになって歩き出す歌だと理解している。次に風呂場や便所でネガティブな独り言を言ってしまったときは、その倍くらいの声量で、この歌を歌ってやろうと思う。