ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

感想10『Q&A』・『我らが隣人の犯罪』

21. 恩田陸『Q&A』(幻冬舎文庫

再読したい度:☆☆☆★★

 ある大型商業施設で起こった謎の大量死傷事故。原因は火災なのか毒物なのかテロなのか。現場にいた客たちは奇妙な人々の目撃を語るが、証言には食い違いがあり、核心にはなかなかたどり着かない。題名の通り、『質問と回答』だけで少しずつ真相に近づいていく形式に引き込まれる作品だ。

 前半に登場した「謎の質問者」や事故に関与した「回答者」のたどったその後の運命が、後半の対話で明かされてゆく。そして、最後まで読むと、これはミステリーなのか、ホラーなのか、はたまたファンタジーだったのか、と混乱する。恩田陸感が味わえる作品だと思う。

 また、作品と直接的には関係ないのだが、つかみどころのない日常のモヤモヤした感情を的確に言葉にしてくれていて、胸がすっとする部分が随所にあった。その中から、電車通勤をしていて強く頷ける内容を二つ引用して、本作の感想文の結びとする。

”それまではみんな無言でみていましたが、これで完全に引いてしまいましたね。これは本当に危ない、と。電車の中でも、おかしな人がいると、緊張して空気が変わるじゃないですか”

”安全圏に入ったと思うと、歩調が鈍くなるでしょ。電車に乗り込むときも、電車に乗ったと思うとみんな安心して足を緩めますよね。で、後ろから乗ってきた人は急いでるから、入口付近だけやたらと混む”

 

22. 宮部みゆき『我らが隣人の犯罪』(文春文庫)

再読したい度:☆☆☆☆★

 学生時代に読み漁ってしばらく遠ざかっていたが、久しぶりに著者作品を読んだ。表題作を先頭に他四編を収録している。

 前半三作『我らが隣人の犯罪』・『この子誰の子』・『サボテンの花』は、独特の読みやすさが際立っていた。物語の当事者(一人称視点、あるいは三人称視点の主体)が少年であったり、少年少女を見守る教師であったり、柔らかい語り口だからだろう。法律的にアウトな行動や、そんなが子供がいるものかと考え込んでしまうような非現実的な展開もあるのだが、軽妙に話が進んでいくことですんなり飲み込めてしまう。あたたかい印象が残る作品だった。ちなみに、この本で一番のお気に入りは『サボテンの花』だ。

 あとの二作『祝・殺人』・『気分は自殺願望』は前半と比べると話の骨格が堅い印象だ。しかし、堅いと言っても読みやすさ、軽快さがなくなったわけでは決してなく、大人視点で進むミステリアスなストーリーが滑稽さを交えて展開されていく。「滑稽さ」の背景にあるのは、物語の当事者の根本的には深刻にならない性格だろうと思う。

 私自身、何か文章を書くとどうしても説明っぽくなってしまうので、この読みやすさには学びたいところだ。視点の主体のコミカルな性格やその表現方法のほかにも、読みやすさの秘訣というものがあるはずで、家にある著者作品も読み返したくなった。