ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

感想34『神様ゲーム』・『出版禁止』

 

54. 麻耶雄嵩神様ゲーム』(講談社文庫)

再読したい度:☆☆★★★

 妻の本棚シリーズにして、読み始めてから気づいたが、再読シリーズ。結末が衝撃的というか腑に落ちない内容だったことは覚えていたが、その結末自体はすっかり忘れていたので、二度目でも十分楽しめた。

 巷を騒がせる連続猫殺し事件に立ち向かおうとする小学生探偵団。団員である主人公の少年は、みんなが嫌がる掃除の時間をきっかけに、寡黙で不思議な転校生と仲良くなる。転校生は「神様」を自称し、あたかも全知全能のごとき振る舞いだ。彼の断言を完全には否定できない主人公は、それを「『神様』になりきる彼なりのゲーム」と結論する。でも、ゲームといいつつ「神様」の発言をどこかで信じてしまう自分がいる。そして案の定、「神様」の予言は絶対であって──。

 レンジャーものが大好きで、友達やグループの掟は頑なに守り、将来の夢をぼんやりとだが嬉々と語り、異性に淡い恋心を抱く。そんなハツラツとして清らかな少年時代の中に、「死」や「性」が絶妙に混ぜ合わさり、「神様」そして「天誅」という抗えない絶対性がその上に君臨する。柔らかいと鋭い、温かいと冷たい、ほろ苦いと後味の悪い。それらが共生する物語のバランス感覚が素晴らしい。

 

55. 長江俊和『出版禁止』(新潮文庫

再読したい度:☆☆☆★★

 こちらも隣の本棚から。ある有名人の「心中」事件を追ったルポルタージュの材料集め(=取材)が進むかたちで物語は展開する(ノンフィクションのように書かれたフィクションであると理解する)。その形式から、また語り手がジャーナリストであることから、文体は説明的かつ論理的で、レポートを読んでいる感覚が強い。

 一方、注意を引くのは「──(ダッシュ)」と「……(三点リーダ)」の多様だ。前者はスピード感、後者は余韻を表すと大体理解するが、本来のレポートであればこれらを用いた曖昧な表現は避けるべきだ。だが、ルポタージュの性質上“乾いた”感じになってしまう文章に、人間臭さや臨場感を与えているのはこれらの記号が生み出す緩急ではないかと思った。

 説明的な流れから一転して、終盤は感情的で、驚愕的な記述が続く。「心中」事件を追うジャーナリストの真の狙いは一体なんだったのか。その核心に迫っていくことになる。私自身、読み進めながら仮説→検証の思考プロセスを何度か繰り返したが、面白いように導き出される答えが変わっていく。著者はしてやったりと言う感じなのだろう。私がたどり着いた最後の答え──それはネタバレになりかねないので内緒にしておく。