ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

三島くん

学生時代に帰省した折、両親や弟たちは出払って、特段することがなくなったので、居間で本を読んでいた。 しばらくすると祖母が「お茶でも飲むか」と声をかけてきた。首肯してありがたくいただくことにする。 祖母は茶をすする私をみて、満足げな笑みを浮か…

感想22『人間失格』

38. 太宰治『人間失格』(角川文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 言わずと知れた太宰治の代表作。再読シリーズだが、十数年前の私には理解力がなく、読むのを途中でやめたかもれないので、ほとんど初読である。太宰の入水自殺の6日後、遺体の上がった6月19日を「…

感想21『科学と宗教』

37. Thomas Dixon(著) 中村圭志(訳)『科学と宗教』(丸善出版) 再読したい度:☆☆★★★ 学生時代、修士から博士課程にかけて、専門の研究に加えて、とあるプログラムに所属して副専攻のような形式で学んでいた。その関係で、科学と社会といった類の話題…

感想20『数と記号のふしぎ』

36. 本丸諒『数と記号のふしぎ』(SBクリエイティブ) 再読したい度:☆★★★★ 図書館シリーズ。数学で使われる数字や記号がまとめられた内容だ。知らない表現があったらどうしようとヒヤヒヤしていたが、全て目にしたことのあるものだったのでそこは安心した…

たとえばシャトルの落ちる速さで

最近、バドミントンに力が入っている。職場のバドミントンチームのリーダーがやる気で、週一回は仕事終わりに借りた体育館で打ち込んでいる。 部活でやっていた高校時代と比較して、当然ながら練習量は劇的に少なく、また体力も落ちたのだが、ひょっとしたら…

感想19『そして、バトンは渡された』・『5分後に意外な結末 ベスト・セレクション』

34. 瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 実の親との死別や親の離婚などを経て、4度苗字が代わった少女と、親たち、友人たちの関わりあいを描いた物語。読後、記事を書くために少し検索したら、「令和最大のベストセ…

さよならは難しい

私は物持ちがいい。エコだとかSDGsだとか流行りのものではなく、私に備わる根深い性質で、周囲に怖がられるくらいに、気づけばずっと同じものを使っている。 例えば、小物を入れて持ち歩いている巾着袋。これは私が幼稚園に通っていたとき、弁当入れに使って…

感想18『俳句がうまくなる100の発想法』

33. ひらのこぼ『俳句がうまくなる100の発想法』(草思社) 再読したい度:☆☆☆★★ 図書館で借りた本の二冊目。タイトルの通り俳句の発想法が全部で百も紹介されている。「これはすぐに使えそうだな」という発想法はメモをとりながら読み、読了してリストア…

感想17『これが名句だ!』

32. 小林恭二『これが名句だ!』(角川学芸出版) 再読したい度:☆☆☆☆★ 図書館の近いところに引っ越し、文庫本以外の本を読む機会が増えつつある。今回は秀句を作者ごとにまとめて解説しているこちらの本を紹介したい。とても勉強になった。 16人の俳人が…

俳句6(コーヒーブレイク)「要点資料」

文章で長々と書かれると読むのに時間と労力を費やさねばならぬという方もいると思って、今回はちょっとコーヒーブレイク。これまでの内容のうち、特に俳句1「五七五のリズム」、俳句2「季語」、俳句3「切れ」に関連した内容を資料にまとめたことがあった…

感想16『黄金を抱いて翔べ』・『カラフル』

30. 高村薫『黄金を抱いて翔べ』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 第3回日本推理サスペンス大賞受賞作。二人の男が金塊の盗みを企て仲間を集め、実行するまでを描いたお話。迫力があってなおかつ緻密な描写が魅力的で、映画になりそうだな、と思ったら案…

父の背中

数ヶ月前、父が退職した。定年を過ぎてから数年間も、同じ会社で勤め上げての退職だった。 少し前には「所長(当然父より年下)が部下や取引先との関係を疎かにしている。俺の言うことに耳を傾けようとしない」と、一方向から聞いただけでは状況を把握しかね…

日本酒2『辛口魚沼純米』・『菊水の辛口』

日本酒についての記事更新が滞っていた。この図鑑の方針や評価基準などについては、初めの記事(日本酒図鑑1『はじめに』・『大吟醸 北秋田』)を参照されたい。 2 辛口 魚沼純米 評価:おいしい(B) 日本酒度:+12 酸度:1.5 新潟は白瀧酒造のお酒。バカ…

感想15『砂の女』・『苦役列車』

28. 安部公房『砂の女』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 砂とともに人々が生活する村に迷い込む男の物語。『近代日本文学を代表する傑作』と称され、海外での評価も高いようだ。不幸な境遇に抗いつつも、砂にまみれた生活に次第に順応していく過程を緻密…

名前のない男

洋上にて。船酔いをしない私だが、「実は、生まれてこのかた酔い続けているのかもしれない」というパラドックスを神妙な面をして口にすると、周りの人たちが失笑した。君は辛味を感じる能力とか、いろいろ感覚が壊れているからね。と先輩が皮肉った。おかし…

感想14(番外編)『そのケータイはXXで』

27. 上甲宣之『そのケータイはXX(エクスクロス)で』(宝島社文庫) 再読したい度:----- 高校生の頃に読んだ一冊だ。ここにとりあげるときは、既読の本であっても改めて読むようにしているが、今回はあえて再読していない。なぜなら、この本には、物語の…

ニンテンドースイッチで蘇るスーパーファミコンの作品3選

まわりと話しをしてみると、どうやら私は平均よりゲームをする人間らしい。現在、自宅にあるハードウェアはニンテンドースイッチだけなのだが、うれしいのはこのハードでファミコンやスーパーファミコンのゲームが遊べることだ。購入したスイッチのソフトに…

転がる石には苔が生えぬ

春は出会いと別れの季節であるらしい。「らしい」と他人事なのは、卒業入学など行事の結果として生じる事象を、季節そのものと直接結びつけることが、私の中では少々短絡的で洒落臭い気がするからである。 しかし、そんな屁理屈をこねても、この時期に出会い…

誰もが誰かのExample

少し前の話になるが、肩と首が重くてどうしようもなくなり、整骨院に通っていた。治療してもらったのははじめてだったが、先生いわく、「なかなか見ないひどいコリ」だったらしい。 昨年夏の初診から、週一回のペースで治療してもらっていた。十五分程度のも…

シーサーゲームを考案した

シーサーゲームを考案した。ルールは単純、道具もいらない。いつの日か、じゃんけんにとって代わるんじゃないかと、内心ビクビクしている。今日はこの、期待のニューゲームを紹介したい。 ゲームは2人対戦だ。対戦相手と向かい合ったら、もう準備は完了。戦…

感想13『ルビンの壺が割れた』

*今回は特に注意しておきます! 何も前知識を入れずに作品を味わいたい方は、以下お読みにならない方が良いと思います(こう言うこと自体、もう良くないかもしれない)。 26. 宿野かほる『ルビンの壺が割れた』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 「ネタバ…

感想12『永すぎた春』・『交換殺人には向かない夜』

24. 三島由紀夫『永すぎた春』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 一年におよぶ婚約期間を経験し成長していく若き男女の純愛小説。著者の純愛小説というと『潮騒』が思い出されるが、その詳細までを覚えておらず誠に残念に思った。著者の同系統を再読して比…

7つの基本単位

世界は無数の数値で満ちている。それらは大抵の場合、特定の「単位」をつけて用いられる。中学や高校の理科教師たちは、「計算をするときは単位に注意しろ」と口うるさくいっていた。私も塾講師のアルバイトをしていた頃は生徒たちにこの受け売りの言葉をか…

日本酒1『はじめに』・『大吟醸 北秋田』

0 はじめに 日本酒図鑑を作ろうと思う。これまで、それなりの種類の日本酒を飲んできたが、どれがどんな味だったのかさっぱり覚えていない。味の違いがよくわからないことが多い。それは、一年以上前に友人らと開催した「日本酒飲み比べ銘柄当て大会」最下位…

俳句5「季語を説明しない・季語を離す」

俳句についてはしばらく時間が空いてしまったが、今回は俳句2「季語」に関連して、「季語を説明しない」・「季語を離す」ことについて記したい。 季語を説明しない 季語の連想力は絶大で、効果的に使いさえすれば同季の季語を次々に引き出す力があることは…

ゴルフはできないが、練習場は嫌いじゃない

ゴルフをほとんどやったことがない。コースに出たことはもちろんないし、ボールをまともに前に飛ばせるかも怪しい。だが、妻と友人と正月のテレビ特番を眺めていて、ふと、ゴルフには何故かあたたかい印象があることに気がついた。 ゴルフは大人のスポーツと…

感想11『800』

23. 川島誠『800』(角川文庫) 再読したい度:☆☆☆☆☆ 再読シリーズ。大学一年の夏休みに二、三十冊を読み漁ったうちの一冊。 陸上競技の八〇〇メートルがつなぐ、部活にも性にもまっすぐな二人の高校生の青春ストーリー、という記憶だったけれど、そんなあ…

2020年の反省と2021年の目標 ──標的を見失うんじゃない!──

昨年の初め、一年の目標を立てた(有言不言実行、そして現状打破維持)。今日はその自己評価をし、それを踏まえて2021年の目標を立てたいと思う。 昨年の目標を見返してみておもったが、第一、目標を文章にして書くとわかりにくかった。目標はシンプルでわか…

海はいさ空には歌は生まれない

仕事柄、長期で航海に出ることがある。航海中は週から月の単位で陸を見ない。周りは海と空だけ。 波風一つない水面に雲が綺麗に反射して見えたり(このような静かな海の状態を「べた凪」と呼んでいる)、珍しい鳥やイルカなんかが見えたりすると一寸盛り上が…

野生の「殻なしガニ」が現れた

2年前の今頃、私の心はマインドマップによって丸裸にされた。 daikio9o2.hatenablog.com 結果として、私は深層心理でカニを欲している一方、殻をむいて食うのはとても面倒臭いと思っていることが明らかとなった。何処かの誰かが、「殻なしガニ」など開発し…