ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

感想13『ルビンの壺が割れた』

 

*今回は特に注意しておきます! 何も前知識を入れずに作品を味わいたい方は、以下お読みにならない方が良いと思います(こう言うこと自体、もう良くないかもしれない)。

 

 

 

26. 宿野かほる『ルビンの壺が割れた』(新潮文庫

再読したい度:☆☆★★★

「ネタバレ厳禁!」という煽り文が帯についていた本作。フェイスブックでのメッセージのやりとりだけで進行していく物語だ。三十年前に離別した婚約者のアカウントを偶然見つけてメッセージを送る男と、それに答える女。初めは昔の恋を懐かしむ、甘酸っぱくほろ苦い雰囲気で始まるのだが、本の帯に煽られたため、「最後に何かが起こる」と思って気が気でなかった。はやく展開しないものかという焦りと、どんなふうに話が転がっていくのかという期待で、自然とページをめくるのがはやくなる。実際、分量が多くないこともあって、仕事への行き帰りの時間を使って、2日程度で読み終えてしまった。

 もちろん、結末の詳細に触れるなどという愚行はしないが、読後感にだけ少し触れたい。はっきりしない言葉なので、「賛否両論」というのはあまり好きではないのだが、本作はそう形容されて然るべきものなのだと思う。あとがきを読むとわかるが、事実、読了後は良い印象と悪い印象をもつ人にわかれるらしい。その”衝撃的”な結末に対して、私はおそらく中立的で、陶酔もしなければ気落ちもしなかった。だが、あえて良い点を挙げるとすれば、最後は期待通り、斬新な展開だったことだ。気になった点は、終盤の駆け足な展開(気が急いて読むこと自体がはやくなったこともあるが)に、唐突さが否めなかったこと。

 全体として、何年か前に大ヒットした映画『カメラを止めるな』を観たときの印象に近いものがあった。事前に期待を大きく膨らませてしまった分、素直に楽しみきれなかったのかもしれない。是非、何も情報を入れずに読んで欲しい。そして、感想を聞かせて欲しい。だが、仮にこの感想文をみた後に本作を読もうとする人がいたなら、ここで前知識を入れられてしまった訳で、その願いは叶いそうにない。私だって、本屋でこの本を見つけた瞬間に、帯によって前知識を入れられてしまったので、「事前の情報なしで」というのは無理なのかもしれない。