ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

感想19『そして、バトンは渡された』・『5分後に意外な結末 ベスト・セレクション』

 

34. 瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫)

再読したい度:☆☆★★★

 実の親との死別や親の離婚などを経て、4度苗字が代わった少女と、親たち、友人たちの関わりあいを描いた物語。読後、記事を書くために少し検索したら、「令和最大のベストセラー」と言われている作品のようだ。2021年10月には同タイトルで映画化も予定されているらしい。

 序盤、設定がわかってすぐは、ある程度重い内容を覚悟していたが、むしろ明るい雰囲気が漂う作品だった。その明るさは、主人公の前向きでサバサバとした性格によるところが大きい。こんなできた人間が、果たして実際にいるだろうか? その「できた」ところを同級生に妬まれることがあっても、なお飄々としている感が素敵だ。当然、彼女も悩んではいたのだが、もがいたってしょうがない、という諦観が根底にあるためか、重苦しくならないのだ。

 総合して素晴らしいのは、各々個性のある親たちの言葉や考え方──これをタイトルの『バトン』と捉えて良いだろう──が主人公にちゃんと伝わっていることだ。もっと厳密には、親たちの個性を、主人公がしっかりと、適切に汲み取っていること。親たちが個性を出して子供と接することは当然あるとして、それを主人公がひねくれもせずきちんと受け取ることがすごいと思う。

 虚構であっても現実味の漂う内容であるがゆえに、少しひっかかるところもあった。強い個性の親が2人いて、彼らはしばしば突飛な発言と行動をする。その軽いノリに違和感を感じた。コミカルすぎて、「本当にこんな言動をする奴、いるか?」と現実に思考が引き戻されてしまう。虚構だから非現実的でもいいし、それがこの作品になんともいえない明るさをもたらしているのだが、同時に作品にのめり込めなくしているところもあったように思う。

 そんなことは言っても、不思議な雰囲気の良い作品であることは間違いない。最後は感動して、少し泣いた。

 

35. 桃戸ハル 編・著『5分後に意外な結末 ベスト・セレクション』(講談社文庫)

再読したい度:☆★★★★

 ショートショートを集めた一冊で、都市伝説や怪談、アメリカンジョーク的な短編が主な内容だ。既視感が否めないものも正直あって、序盤の場面設定で結末がわかってしまうことが多かった。本作について調べてみると、小学生に大人気のシリーズの総集編らしく、怪談のテイストなど、私が小学生時代に読んでいた本と通ずるものがあり、児童からの人気には納得の内容だった。

 先が読めてしまうというのは一概に悪いとはいえず、限られた分量で場面設定をうまく説明して、読者に的確に伝えられている、と捉えることもできる。細かな心の動きや情景描写の味わいは薄いが、短く効果的に伝えることに関しては学ぶところが多い。