ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

作品感想集

感想23『怖いへんないきものの絵』

39.中野京子、早川いくを『怖いへんないきものの絵』(幻冬社) 再読したい度:☆☆★★★ 図書館シリーズ。題名をみて、怖い絵やらへんないきものやら、人気のありそうな内容のいいとこどりかと思って手に取ったら、まさしくそうだった。だが、そんな安易な取…

よくあれという思いやり草の花

改札を出ると、まだ朝早いというのにカレーの匂いがした。食べ物の良い匂いがすればその出どころを探るというのは、人間に備わる本能ではなかろうか。結局のところ、その主は少し前をゆくサラリーマンの食べる「カレーまん」で、合点がいったのと同時に、何…

感想22『人間失格』

38. 太宰治『人間失格』(角川文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 言わずと知れた太宰治の代表作。再読シリーズだが、十数年前の私には理解力がなく、読むのを途中でやめたかもれないので、ほとんど初読である。太宰の入水自殺の6日後、遺体の上がった6月19日を「…

感想21『科学と宗教』

37. Thomas Dixon(著) 中村圭志(訳)『科学と宗教』(丸善出版) 再読したい度:☆☆★★★ 学生時代、修士から博士課程にかけて、専門の研究に加えて、とあるプログラムに所属して副専攻のような形式で学んでいた。その関係で、科学と社会といった類の話題…

感想20『数と記号のふしぎ』

36. 本丸諒『数と記号のふしぎ』(SBクリエイティブ) 再読したい度:☆★★★★ 図書館シリーズ。数学で使われる数字や記号がまとめられた内容だ。知らない表現があったらどうしようとヒヤヒヤしていたが、全て目にしたことのあるものだったのでそこは安心した…

感想19『そして、バトンは渡された』・『5分後に意外な結末 ベスト・セレクション』

34. 瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 実の親との死別や親の離婚などを経て、4度苗字が代わった少女と、親たち、友人たちの関わりあいを描いた物語。読後、記事を書くために少し検索したら、「令和最大のベストセ…

感想18『俳句がうまくなる100の発想法』

33. ひらのこぼ『俳句がうまくなる100の発想法』(草思社) 再読したい度:☆☆☆★★ 図書館で借りた本の二冊目。タイトルの通り俳句の発想法が全部で百も紹介されている。「これはすぐに使えそうだな」という発想法はメモをとりながら読み、読了してリストア…

感想17『これが名句だ!』

32. 小林恭二『これが名句だ!』(角川学芸出版) 再読したい度:☆☆☆☆★ 図書館の近いところに引っ越し、文庫本以外の本を読む機会が増えつつある。今回は秀句を作者ごとにまとめて解説しているこちらの本を紹介したい。とても勉強になった。 16人の俳人が…

感想16『黄金を抱いて翔べ』・『カラフル』

30. 高村薫『黄金を抱いて翔べ』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 第3回日本推理サスペンス大賞受賞作。二人の男が金塊の盗みを企て仲間を集め、実行するまでを描いたお話。迫力があってなおかつ緻密な描写が魅力的で、映画になりそうだな、と思ったら案…

感想15『砂の女』・『苦役列車』

28. 安部公房『砂の女』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 砂とともに人々が生活する村に迷い込む男の物語。『近代日本文学を代表する傑作』と称され、海外での評価も高いようだ。不幸な境遇に抗いつつも、砂にまみれた生活に次第に順応していく過程を緻密…

感想14(番外編)『そのケータイはXXで』

27. 上甲宣之『そのケータイはXX(エクスクロス)で』(宝島社文庫) 再読したい度:----- 高校生の頃に読んだ一冊だ。ここにとりあげるときは、既読の本であっても改めて読むようにしているが、今回はあえて再読していない。なぜなら、この本には、物語の…

感想13『ルビンの壺が割れた』

*今回は特に注意しておきます! 何も前知識を入れずに作品を味わいたい方は、以下お読みにならない方が良いと思います(こう言うこと自体、もう良くないかもしれない)。 26. 宿野かほる『ルビンの壺が割れた』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 「ネタバ…

感想12『永すぎた春』・『交換殺人には向かない夜』

24. 三島由紀夫『永すぎた春』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 一年におよぶ婚約期間を経験し成長していく若き男女の純愛小説。著者の純愛小説というと『潮騒』が思い出されるが、その詳細までを覚えておらず誠に残念に思った。著者の同系統を再読して比…

感想11『800』

23. 川島誠『800』(角川文庫) 再読したい度:☆☆☆☆☆ 再読シリーズ。大学一年の夏休みに二、三十冊を読み漁ったうちの一冊。 陸上競技の八〇〇メートルがつなぐ、部活にも性にもまっすぐな二人の高校生の青春ストーリー、という記憶だったけれど、そんなあ…

感想10『Q&A』・『我らが隣人の犯罪』

21. 恩田陸『Q&A』(幻冬舎文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ ある大型商業施設で起こった謎の大量死傷事故。原因は火災なのか毒物なのかテロなのか。現場にいた客たちは奇妙な人々の目撃を語るが、証言には食い違いがあり、核心にはなかなかたどり着かない。題…

感想9『ユージニア』・『残虐記』

100記事目(はじまりの99記事を振り返る)の反省を踏まえて、今回から記事のタイトルをみれば読んだ本がわかるようにした。合わせて、これまでの感想集もタイトルのみ変更した(感想1『五分後の世界』・『私の家では何も起こらない』・『斜陽・パンドラの…

はじまりの99記事を振り返る

100記事目である。ブログを始めたのが2016年11月だったから、約4年での区切りとなった。平均すると1ヶ月に2記事程度の投稿だ。統計的にみれば意外と悪くないペースのように思えるが、1文字も書かない月もあれば、反対にひと月に5つも6つも公…

感想8『PK』・『今はじめる人のための俳句歳時記 新版』

17. 伊坂幸太郎『PK』(講談社文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ これぞ伊坂というような、バラバラだったピースが綺麗にハマっていく快感──! 風な話だと思いきや、考え出すと時系列や登場人物がうまく噛み合わないちょっと不思議な一冊。三つの中編が、著者の…

感想7『螢川・泥の河』・『永遠の放課後』

今回も早速いきます。ネタバレにはご注意ください! 15. 宮本輝『螢川・泥の河』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ 『螢川』は芥川賞、『泥の河』は太宰治賞受賞作である。どちらも、主人公は少年。彼らの体験や心の動きが、彼らの目の高さで、真正面から…

感想6『金閣寺』

今回は一作品に集中する。良い文にはよく考えさせられるものだ。 * ネタバレにご注意ください! 14. 三島由紀夫『金閣寺』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆☆☆ 疲れた。強固な論理的秩序と膨大な知識量に何度も負けそうになった。数年前の私なら途中で読むの…

感想5『木曜組曲』・『プラナリア』

さあパート5だ! こんにゃろ! 今回は前置きを抜きにしていくぞ! こんちきしょう! * ネタバレにご注意ください! 12. 恩田陸『木曜組曲』(徳間文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ これぞ静かで奇妙な恩田陸ワールド。五冊に一冊は彼女の作品を読まずにはいら…

感想4『猛スピードで母は』・『魚籃観音記』

一言読書感想集も第四弾となった。「一記事につき三〜五冊ずつ紹介できればいいかな」という考えで始めたが、分量的に「一記事二冊」が妥当かもしれない。一冊一冊の感想が充実してきたためだ。 一言というわりに長すぎるのでは? と思い、その適切な分量を…

感想3『変身』・『おさがしの本は』

パート1(ひとこと感想集 )、パート2(ひとこと感想集 part 2 )と続けてきた「一言読書感想集」だが、パート1を書いていて気づいたのは「感想が『あとがき』に引っ張られる」ということである。あとがきについて共感あるいは批評的な感想をもち、それに…

感想2『ラムネ』・『ドミノ』・『レプリカたちの夜』

感想を残すことにしてから、「早く感想を書きたい!」という本末転倒な欲求により読書がよく進んでいる。あと、「感想を残さなければ!」という勝手な使命感により内容がよく頭に入ってくる。 一方、「この本も感想集に入れたいなー」という面倒なこだわりか…

感想1『五分後の世界』・『私の家では何も起こらない』・『斜陽・パンドラの匣』・『虹彩・太陽をうつすもの』

これまで何冊の本を読んできたか知れない。これは数え切れないほど多くを読んできたと自慢しているのではなくて、ただ単に数えていなかったというだけのことである。 現在の自宅の本棚には百冊程度の文庫本が並んでいて、ときどきそれらの背表紙を眺めながら…

渇き

「…生きることが難しいなどということは何も自慢になどなりはしないのだ。わたしたちが生の内にあらゆる困難を見出す能力は、ある意味ではわたしたちの生を人並みに容易にするために役立っている能力なのだ。なぜといって、この能力がなかったら、わたしたち…