ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

感想43『サラバ!(上)』・『海のトリビア』

 

68. 西加奈子サラバ!(上)』(小学館文庫)

再読したい度:☆☆☆★★

 上中下の三巻からなる長編のうち、まずは上巻だけを読んで感想を書いている。上下巻で完結と勘違いして、既に下巻だけ買ってしまった。中巻はまだ入手していないこともあり、読破までは少し時間がかかりそうだ。

 大筋としては、主人公の僕(名前は歩)の生い立ちを振り返る格好で話が進む。根幹となる面白さは、父、母、姉、そして主要な友人たちそれぞれの性格(あるいは本質)の掘り下げと、周囲との関わりの中での「僕」という人間の形成と変化の過程、同時に彼の「変わらなさ」の描写だ。生き易いようにと「空気を読んで、目立たないようにすること」を信条として、その優れた能力を発揮する「僕」には共感できるところが多く、同時に、むしろその特技が、周囲の目に怯え、他人に余計に気をつかい、自己主張を躊躇う「僕」の性質を形成し、結果的に僕(これは歩であり、共感する私自身でもある)の卑屈さや生きづらさを生んでいるような気がした。

 語りの形式上、おおむね主人公の生い立ちに沿って、エピソードの羅列で話が展開していくので、「あれ、そういえば彼/彼女はどうなった?」と思い返すことがしばしばあるが、決して物足りなさや不安定さはない。むしろ、ここまできて物語の3分の1なのかと、満足感と今後の展開への期待感がとても大きい。今のところ、どこに向かっている話なのか、どうやって着地するのかは、全く想像がついていない。

 

69. シップアンドオーシャン財団海洋政策研究所、日本海洋学会『海のトリビア』(日本教育新聞社)

再読したい度:☆☆★★★

 海に関する雑学を集めた一冊。続編もあるのだが、残念ながら絶版状態らしい。私は最近、学会関係の用事で読む機会があったのだが、読んでみたい方は中古や図書館の蔵書を探してみて欲しい。トリビアというだけあって、「へぇ〜」と思う知識がかなりある。以下、面白いと思ったトリビアをいくつか抜粋した。

海が荒れるのを祈願する神社がある

 昔、荒天になると出航が見送られ船乗りが遊びに来てくれることから、遊女たちが祈願し始めたのだとか。好天を祈願するより叶いそうな気がするのは私だけだろうか。

大西洋は太平洋より塩辛い

 これは私にとっては常識だったが、意外と知られていないと思うので取り上げる。偏西風に乗って運ばれる湿った空気が大陸の山脈にぶつかり、太平洋側に雨を降らせる。結果、大西洋上空においては比較的乾いた空気が通過することとなり、蒸発の降水の差し引きを考えると、太平洋は降水過多で塩分を薄める方向、大西洋は蒸発過多で塩分を濃くする方向に作用することになる。

犬ぞりは南極では使えない

 南極条約により南極にいない生物の持ち込みが禁止されているためらしい。タロとジロの「南極物語」(見たことはないが)はこの条約ができる前の話だそうだ。

地球上で最も長い生き物はクラゲである

 これは驚き。体長30 mにもなるシロナガスクジラが最も大きいし長いと思っていたが、長さだけなら管クラゲの仲間が勝るらしい。ひょろひょろとヒモのような器官を持っており、伸ばすと45 mにもなるのだとか。

海の塩を10トントラックで並べると、カニ星雲の手前にまで達する

 距離をいわれてもよくわからないが、とにかく海に溶けている塩の総量がとんでもないということだ。なんと5千京トン。小学生がふざけているみたいだが、実際に計算してみたら本当だった。10トントラックに積めば5百京台、一台が全長12メートルとしてトラックを連ねれば6千京メートル、光速でも6300年かかる距離(=6300光年)だ。