ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

樽と壺は壊せ

 

 バイオハザードのやりすぎか、ハーブティーを飲むと少し体力が回復する気がする。赤色のハーブが混ぜられるとなお良さそうだ。一方、三国無双の肉まんは何か違う。どちらかというと、食べるほど攻撃をくらう気がする。

 ゴールデンウィークの頭に子供が熱を出して倒れ、中盤にそれをもらった妻が倒れた。予定という予定はなかったが、近くの動物園か大きな公園くらいには行きたいねと話していたものの、体調不良者が相次いだためどこに出かけるでもなく、ただ一人無事だった私は調子にのって夜な夜なゲームをし続けた。バイオハザード三國無双。字面をみただけで興奮するほどの名作だ。

 そしてゴールデンウィーク最終日。余裕ぶっこいていた私を、強烈な腹痛と吐き気、高熱が襲った。やられた。完全にうつされたのである。クソッ、最後のゲーム三昧を楽しもうと思っていたのに。

 それは寝るに寝られぬ夜となった。なぜなら、腹に力を入れていないとやっちまいそうになるからである。子どもがオムツにやっちまうのとは訳が違う。私の人間としての尊厳の最後の部分は、なんとしても死守せねばならない。そんな激烈な腹痛と闘う現実の端っこで、おそろしい悪夢を見た。

「樽があったら壊せ、壺があったら割ってみろ」というのはバイオハザード三國無双の常識だ。それは中に収まっているアイテムが手に入るからで、前者では弾薬やお金、後者では能力上昇アイテムなんかが出ることもあるが、両者に共通しているのは、回復アイテムだ。バイオハザードならハーブ、三國無双なら肉まんである。

 私は暗闇の中で、耐え難い腹痛と闘いながら彷徨っている。体力ゲージは赤。瀕死状態である。そんな中、落ちている樽をみつける。あっ、中に回復アイテムが入っているかもしれない! そう思って手持ちの武器(なんじゃそりゃ)で樽を叩き壊すと、中は空っぽ。クソ! だが、少し歩くと、今度は壺だ! 壊す。中は空っぽ。クソッタレ! だれがクソッタレだ! まだタレとらんわ! ずっとこの繰り返しなのだ。

 樽に向かって歩くたび、私の足は布団を蹴っ飛ばし、壺をかち割るたび、私の手はベッドの柵をガンッと叩く。実体は横になりながらも消耗していく体力ゲージを思いながら、「ああ現実とはなんて辛いのだろう」と考える。現実では、樽や壺を壊しても、回復アイテムは入っていないのだ(と考えているのは夢の中だが)。回復するためには、病院か薬局という決まった場所に行かなければいけないのだ。なんて不便なんだ。ゾンビや猛将たちに追いかけ回されてもいいから、すぐに回復が拾える世の中をこの手に! 自宅のリビングの隅に、いや、寝室のベットの横に樽か壺を置いてくれ!

 そんなことを脳が叫んでいるうちに、私の体は目を覚まし、いたたまれず便所に駆け込む。これを数回やった。数回やったら、夜が明けて、それでも起き上がれず、一日寝込んだ。だが、次の日にはだいぶ良くなっていた。そして、一日ぶりに口に入れた固形物である豆腐そうめんを啜りながら、考える。やっぱり、樽や壺などなくとも、化け物ウイルスや合戦の恐怖に怯える必要のないこちらの方が、ずっと良さそうだと。