ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

感想24『あるべき場所』・『街角の科学誌』

 

40.原田宗典『あるべき場所』(新潮文庫

再読したい度:☆☆★★★

 表題作を含む5編を収録している。はじめの2編は日常に近い雰囲気だ。展開はねっとりしているというか、もっさりしているというか。何か新展開を期待していると、何も起こらない焦ったさがある。でも、ありのままの日常というのはこんなだろうと思う。

 後半の3編は、もう少し話に奇妙な感じがあって興味をそそられる。表題作は、現在から回想を挟んでまた現在と移る間に、印象が変わっていって面白い。『何事もない浜辺』と『飢えたナイフ』には張り詰めた怖い雰囲気が共通点としてある。前者は人間の恐ろしさ、後者は呪われた道具(刃物)の恐ろしさをテーマとした作品だ。この二つは結末が気になって、ページをめくる手が止まらなくなった。

 

41.金子務『街角の科学誌』(中公新書ラクレ

再読したい度:☆★★★★

 図書館シリーズ。街にあるモノや仕組みを科学する内容かと思って借りたが、だいぶ違った。8つの章からなり、地域やテーマで分けられているが、章ごとの統一感はあるようでない。また、科学よりと歴史に重きがある。冒頭で、著者自身が表題は「科学史」から「科学誌」となったと言っているが、どちらかといえば前者の方が適切なように思う。

 訪れた地にまつわる科学や、ゆかりのある科学者の逸話などが、紀行文のように書き連ねられている。知識の詰め合わせといった感じで、ギリシア文明から現代まで、世界の科学史についてある程度知識があれば楽しめるかもしれない。私はこの分野には詳しくないので、これまで聞いたことがあって知っている人物や話題を探し出して、知識を深める感じだった。「火が万物の根源」と考えたヘラクレイトス、中国の龍の九仔、ノアの方舟の大きさ、サグラダ・ファミリアの螺旋階段、アインシュタインのスイス国籍、なんかが断片的に記憶に残っている。全体が面白かったとは私にはいえないが、ここまであらゆる時代・国の科学の歴史に興味を持って、詳しくなれる著者は素晴らしいと思う。