ライ麦畑で叫ばせて

日常・回想・妄想・数学理科・社会・思考の道草 を軸に書きます。

我が手に使用許可を

 

 七月某日、名古屋観光に行ってきた。

 仕事終わりに新幹線にとび乗って、宿に着いたのは二十一時半頃であった。

 荷物をおくが早いか、我々は手羽先を喰らいにいくことにした。私も同行人も空腹と暑さのため、道中はいささか殺気立っていた。

 たどり着いた店でぐびっと飲んだビールは格別だった。

 そして何と言ってもおめあての手羽先だ。ぎゅっと引き締まった肉の表面はタレできつね色にテカっている。口に近づけるとなんとも香ばしいかおりが食欲を増進させる。

 できることなら写真をお見せしたいものだが、手羽先はいわばむき出しにされた鶏肉、その関節を逆に折りまげて身をそぎ、むさぼり食う料理だ。その写真を掲載することがSNSにおけるコンプライアンスを遵守しているというコンセンサスがとれるか否かはいささか疑わしい。

 そもそも店に着くまえに「殺気立っていた」とか言っちゃったが大丈夫だろうか。実際に殺生はしておりません、とか注釈をいれたほうがよいのだろうか。

 検討の末、手羽先に関しては残念ながら私のつたない描写のみとなってしまった。残念だ。

 さて、次の日は起きてすぐに有名なひつまぶし屋に向かった。

 二三時間待つこともあるということで覚悟していたが、開店より一時間半まえに到着したのがよかった。開店と同時に入店できる事前予約を完了し、それまで近くの神社を見てまわることにした。

 私のすまーとふぉんには、あざやかな緑にひかる広葉樹にかこまれた、木造の大きく立派な鳥居の写真が数枚保存されている。

 だが、残念ながらこちらもお見せすることができない。あの日はきもちのよい晴天だった。しかし、その晴天をみなさまに保証することは不可能だからだ。おい! 写真と全然景観がちがうじゃないか! と訴えられたら大変だ。

 話をすすめよう。事前予約の甲斐あって、我々はスムーズにひつまぶしにありつくことができた。美味だった。

 ひつまぶしとはどんなものか、みなさんもご存知だろう。しかし、ここで少しうなぎについて考えてみてほしい。うなぎは腹からか背中からか、無慈悲に掻っ捌かれる(腹か背中かは関東と関西でことなるらしい)と串刺しにされ、茶色い秘伝のたれにひたされ、そして火あぶりにされる。やがて白飯の上でてらてらしていたかと思うと、わさび攻撃やだしの水ぜめにあい、とうとう食われてしまう。

 こんな仕打ちをうけたうなぎの写真を一般に公開する勇気が私にはない。グロいぞ! 倫理基準に反する! R指定にしろ! などと言われたらもう記事を一般に公開することなどできない。ああ、写真がのせられないのはほんとうに残念だ。

 とかく、うなぎで満腹になった私と同行人は、電車に飛び乗り国宝・犬山城へと向かった。

 最寄り駅から目的の城までは淡々と歩いて二十分ほどだろうか。通常であればさっさとむかうところであったが、幸か不幸かその日は快晴、気温は体温かそれ以上、いわいる灼熱地獄であり、途中で我々の本能が涼を求め欲して、どこかに入らずにはいられなくなった。

 そんな意識朦朧ぶっ倒れる寸前、なんの変哲もない道を曲がって我々の目の前に広がったのは、なんとも古風ですてきな町並みだった。

 江戸の下町を思わせる木造の店々のひとつに入ると、我々は一心不乱に氷をむさぼった。私は日本酒のかき氷を、同行者はサングリアのかき氷を喰らった。

 枡に盛られたふわっふわっの氷に、甘く透明な酒がたっぷりとかかっていた。そして、それより少々辛口の酒がお猪口でそえられている。氷をあてに酒を飲むというのもまたおつなものであった。

 命を救う氷、できればお見せしたいのだが、そのねがいもまた叶わない。残暑厳しい今日この頃、掲載した氷の写真をみた人々が「そんな美味そうなものをみせるな! 氷テロリズムだ!」と憤慨しないとも限らない。テロリストになるのは御免だ。

 さて、城はまさしく城だった。城に対する知識のない私にとっては、それ以上でもそれ以下でもない。ひとつだけ、天守の中の階段はとても急であることに注意されたい。

 ホテル付近の居酒屋でさっと夕食をすませると、我々は次の日にそなえて早めに就寝することにした。

 翌日もまた暑かった。

 ここで、先の文を訂正させていだきたい。犬山城にむかうところで「いわゆる灼熱地獄」という描写があった。これについても、地獄など不謹慎な! 地獄なんていうやつは地獄に堕ちろ! などと批判をうけかねない。したがって、二日間は灼熱天国だった。

 天にも昇るきもちでふらふらとむかった先は名古屋城だ。

 天守には入れなかった。改修工事か何かをしていたからだ。

 そして本丸御殿というあたらしげな建物にはいるために、我々は炎天下のなか一時間ほど並んだ。

 私はこうみえて体力があるのでブヒブヒいっていたが、同行者は熱中症寸前でグヘグヘだった。

 やっとこさ御殿にはいると、装飾がなんともきらびやかで美しかった。しかし、その豪華絢爛よりも当時ほしかったのはサムシング飲料であった。結局、中はさっとまわっただけにして、我々は自販機に直行した。

 需要と供給のバランスがくずれ、もはや熱いに近いぬるめのお茶をありがたくいただくと、我々は阿呆みたいに口をあけ、名古屋城をあとにした。

 途中、観光案内のおじさんに、天守を背景にしたナイスな記念写真をとってもらったが、残念、後ろに欧米人と思われる男女のすがたが写ってしまっている。

 これをのせてしまってはプライバシー権・肖像権、その男女が著名人だったあかつきにはさらにパブリシティ権の侵害だなどと訴えられかねない。情報・コンピュータ・ネットその他諸々のリテラシーがもとめられる昨今だ。情報を受ける側だけでなく発する側も十分な配慮がうんたらかんたら。

 我々はもう疲れてしまっていた。名古屋駅前でさっと味噌カツ定食を食べ(当然写真はない。何かヤバイのに引っかかったらヤバイからだ)、無事に帰宅したというわけだね。

 暑かったが楽しい旅だった。でも、写真があったらもっとうまくこのよろこびを伝えられたかもしれない。

 私のすまーとふぉんのなかの写真たち、一体だれに使用許可をとったらいいんですかね?