ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

感想38『海の見える理髪店』・『スケルトン・キー』

61. 荻原浩『海の見える理髪店』(集英社文庫

再読したい度:☆☆☆★★

 六編が収録された短編集。2016年に第155回直木賞を受賞している。読みやすく、滑稽で、でもそれだけではない哀愁や感動がある。全体を通して感じたのは、会話あるいは語りで巧妙に話を展開させていること。特に表題作は、理髪店の店主の一人語りが内容の相当な割合を占めるだろうに、全く違和感や飽きがない。ほか、家出した少女が主役の『空は今日もスカイ』、娘の死を乗り越えるため、娘の代わりに両親が成人式に参加する『成人式』などが印象的だった。

 前の感想集から三冊続けて短編集を読んでみた。当然、一つ一つの話は、設定が違えば展開も後味も違う。だが、「集」としてひとつのまとまりとされる以上、何か類似性や共通点やがあるに違いない。この短編集は、さまざまな問題を抱え、今は苦しい思いをしながらも、とあるきっかけから、最後には少しだけ明るく前向きになれる人々が描かれている。

 本書の解説はまさに、個々の短編を吟味し、かつ「全体」の中の「個」という視点で短編の特色や役割を堪能している。これからは、私も「明るい感じばかり」、「切ない終わりの集まり」など漠然としたまとめをしたり、好きな一話を挙げたりするだけでなく、短編の集まりとしてのメッセージも考えていければと思う。ちなみに、本作は「短編集」として直木賞を受賞しているようだ。そういった意味でも、「どの話を集合させるか」というのは素人が考える以上に重要なようだ。

 

62. 道尾秀介『スケルトン・キー』(角川文庫)

再読したい度:☆☆☆☆★

 時間をおいて読むと味わいが変わるとか、深みが増すとかいうのでなく、今すぐにでも読み返したいと思わせられた。ふりだしに戻って、最初から作中の仕掛けの整合性を確かめたいと思った。読み終えてすぐというより、実際は三分のニくらい読み進めたところで既にその衝動に駆られながらも、なんとか一度読了した。パラパラとめくり戻ってみれば、なるほど確かにギミックだらけだった。珍しく、まだ少し頭の整理ができていないまま、この感想を書いている。

 主人公は自称サイコパスの青年だ。彼の常軌を逸した言動に、冒頭から一気に世界に引き込まれる。しばしば垣間見えるその異常性には、正直、陶酔する。サイコパスというのは、実際に身近にいて危害を加えられないかぎりは、魅力的な存在なのだとわかった。危険な状態にありながら、自分をまるで他人のことのように客観的に分析し、そして他人はモノであるかのように冷徹に扱う。もちろん、感情は抜きにして、一般人に紛れ込める「普通」の振る舞いも習得している。そんな機械のような振る舞いの一因として、サイコパスは、極端に心拍数が上がりにくいという身体的特徴があるのだそう。そんな心と体の動きが、文章で生々しく伝わってくる。仕掛けや設定はもちろん、精緻な一文一文と、繊細な記述も魅力的な作品だった。