ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

知らないバンド学入門

 

 先日、ある有名三バンドの夢の競演たるコンサートに行った。

 この三バンドのうち二バンドは大変好きで、曲はよく拝聴するしパフォーマンスもライブや映像でよく拝見している。

 その一方で、残りの一バンドについては情報も熱意も全くない状態のまま会場入りしてしまった。そう、皆さんもよくご存知の大学の選択科目「知らないバンド学入門」の実習そのものの状態だ。

 そこで今回は、実習で学んだ「知らないバンドのコンサートに迷い込んでしまったときの傾向と対策」について記したい。

 まず、バンドの構成人数を確認しよう。私は会場の席についてコンサート開始前の十分程度で調べた。すまーとふぉんを持っていればこれは誰でもできることだ。人混みのせいか電波が悪い場合もあるが、是非実践していただきたい。併せてメンバー、特にボーカルの顔くらいは確認しておくとベターだ。

 そうこうしていると、いよいよ知らないバンドが登場する。大抵の場合、一度は耳にしたことのあるような曲で始まるはずだ。

 ただ、イントロが流れた時点で「あの曲か!」となるようではいけない。それでは「知らないバンド学入門」にならないのでとっとと会場を後にすべきだ。うわあ、みんな演奏が始まった瞬間にきゃーとかぎゃーとか言ってらあ、どうしよう。これが正しい反応だ。

 サビになって「ああ、何となく知ってる」となれば出だしはもう完璧だ。あとは黙って聴いていればいい。曲に合わせて手を振ったり体を動かしたりしても構わない。

 さて、一、二曲演奏が終わるとトークにうつる。みんな俺らのこと知ってるでしょ? という感じで自己紹介が始まると思うが、そこで弱気になってはいけない。堂々とふんぞり返っていればいい。ただ、周りは熱心なファンばかりである可能性が高いので、思ったことをすぐ口にする癖がある人は注意されたい。

 当然楽曲が続く訳だが、相手は何といっても知らないバンド。半分以上は知らない曲に決まっている。

 私の場合、前後に好きなバンドのパフォーマンスがあったため、まずはそのバンドたちに思いを馳せることにした。だが、カフェのような騒がしいところよりは図書館や自室などの静かなところで集中する派の私にとって、大音量で流れる知らない曲は思考の妨げとなってしまった。これは私にとっては良くない対策だった。

 次に、目の前の観客の動きに注目してみよう。曲に合わせてみんなが腕を前後左右に振っている。じいっと見る。四角く区切られた観客席。腕は振られ続ける。まだまだ見る。

 そうすると、人々の動きはだんだんと一つの生き物のように見えてくるに違いない。ああ、これは四角いイソギンチャクか。

 イソギンチャクは曲の盛り上がりに合わせて触手を出したりしまったりしている。サビになると律儀に触手を出して振り、それ以外ではじっとしている。

 はて、イソギンチャクには耳があるのだろうか? 音に合わせているのではなくて、もしかしたら曲に連動する照明の色や動きに反応しているのかもしれない。うーむ、目はあるのかなあ?

 そんな妄想からふと我にかえってしまったときも、是非落ち着いていてほしい。おそらく「知らない曲たち」は多くてもせいぜい二曲くらいしか終わっていないはずだ。それでも取り乱してはいけない。

 イソギンチャクを観察しないと! 色とか変わってる! そういやちょっと成長してない!? あとはそう思い込めるかどうかだ。

 楽しい時間はあっという間で、次が最後の曲になってしまいました。そのようなことをボーカルが言ったら、現実に戻ってこよう。最後の曲だし、サビくらいは聞いたことがあるはずだ。AメロBメロを全く知らなくても焦ってはいけない。「聞いたことがある曲」とはそういうものだ。

 ああ、知っている! 聞いたことがある! 曲名は知らないが。歌詞に曲名そのまま入れてくれればいいのになあ。でもまあいいか! 私はこれを確かに知っている! 知っているとはなんと素晴らしいことなのだろう!

 これを最終レポートの結論として、私は「知らないバンド学入門」の単位をとることにした。「知らないバンド学展開」の単位取得をすすめられたのだが、もう暫くはいらないかなあ。