ライ麦畑で叫ばせて

日常・数理・旅や触れた作品の留書・思考の道草 などについて書いています。

ひとこと感想集 part 2

 

 感想を残すことにしてから、「早く感想を書きたい!」という本末転倒な欲求により読書がよく進んでいる。あと、「感想を残さなければ!」という勝手な使命感により内容がよく頭に入ってくる。

 一方、「この本も感想集に入れたいなー」という面倒なこだわりから、過去に読んだ本をあさって引っ張り出してくるので、これからは未読の本が片付かなくなってきそうだ。このままでは現在所持している本たちの感想を書き上げるまで新しい本には手を出せないかもしれない。

 意を決してはじめた「読書一言感想集」には功罪があるが、まずはもう少し続けていきたい。感想集 part 1(ひとこと感想集 - ライ麦畑で叫ばせて)は内容を思い出しつつ書いていたが、今度は読了してすぐ書き留めたのでより臨場感はあるはずだ。

 

* ネタバレと思えるような記述があるかもしれません。ご注意ください。

 

5. 伍代祥『ラムネ』(文学フリマにて)

 友人と行った文学フリマにて、私が購入した一冊。

 あまーーーい! 純粋無垢!

 主人公の男は、私と似て友達が少なく陰湿根暗で、学生時代など廊下は決まって端っこしか歩けないような奴。かと思いきや、そこから一八〇度転回して突然出す積極性たるや恥ずかしくなってしまって直視できない。どっちの人なの? こっちなの? あっちだろ? ちょっと羨ましいぞ。

 文章としては心情描写が細かく、一人語りが多めな印象だった。展開は奇跡的かつスムーズ。

 短いお話なので、通勤帰宅の時間を使って累計一時間ほどでさらっと読了できた。途中、持参した弁当と一緒に入れたせいで、表紙が保冷剤の水で濡れてちょっとシワシワになったのがショック。

 

6. 恩田陸『ドミノ』(角川文庫)

 感想集 part1に続いて恩田陸さんの作品。読後感として強いのは「満足」。この作品はなんと百の節からなっている。三七六ページの文庫本だから、単純計算で一節あたり三、四ページで話が展開されていくわけだ。もちろん、少し長い節もあれば、十行くらいで終わりの節もある。

 節の切り替わりは場面の切り替わり。初めのうちは無関係な人たちの物語がそれぞれの視点で展開されていくことになる。これからどうなっていくの? こんなに人物を出して大丈夫? と初めは不安になるかもしれない。

 というのも、この物語には二十八もの主人公がいる。彼らには各々の仕事があり、使命があり、夢があり、決意がある。思うままに行動する彼らが、やがて出会いやすれ違いを繰り返しながら、最後には一つの物語を完成させる。

 彼らの思いと行動は一枚一枚のドミノであり、初めはとんでもない遠方で倒れているそれらが、最後には大挙し加速して小気味好く倒れ進んでゆくのは、読んでいて痛快かつ圧巻である。巧みな仕掛けや大胆な展開をみると、ドミノよりピタゴラスイッチといったほうが個人的にはしっくりくる。

 作品の比較という意味では、これまで読んできた恩田さんの作品と少し雰囲気が違う感じがした。『光の帝国』はじめ常野物語シリーズなどは、多視点で物語が展開されていくところは同様なのだが、それが繋がりそうで繋がらない。あくまで冷静に、それぞれが独自のコミュニティをもって、一定の距離を保っている。それはおそらく「繋げること」を目的としていないからなのだが、本作も「ひょっとしたら──」と懸念するところがあったのが正直なところだ。「このタイトルからして繋がらないことはないだろう」と序盤は疑心と信頼のせめぎ合い。もちろん最後にはそんな心配などきれいにぶっ飛ばしてくれる。

 そうそう、ぶっ飛ぶといえば、この作品にはぶっ飛んだキャラクターが複数人出てきてとても笑えるのだが、私の一番のお気に入りは事務職員の加藤えり子さんである。

 

7. 一條次郎『レプリカたちの夜』(新潮文庫

 人間以外の動物ほとんどが絶滅した世界で、動物のレプリカをつくる人たちのお話。ブラウン管テレビやレコード、簡素なタイプライターなどが出てくるあたり、未来というよりは異世界と考えた方が良さそうだ。

 登場人物たちの言動や彼らを取り巻く環境、降りかかる出来事などから、まるでシャツのボタンを掛け違えたまま歩いているような違和感がずっと続く。文章自体も川端康成を思わせる特徴的な平仮名遣いが多々あって、それが形容しがたい違和感を増幅させている。

 ちょっとした違和感は、話が進むにつれてどんどん大きくなっていく。小説でいうと夢野久作ドグラ・マグラ』、漫画でいうと林静一『赤色エレジー』が頭をよぎることもあるが、綱渡りのようにギリギリのところで物語を保っている。宮崎夏次系の漫画『なくてもよくて絶え間なくひかる』のような絶妙なバランスとでもいおうか。別の作者作品ばかり挙げて申し訳ないが、今までに読んだことのないおそろしいバランス感覚をもった話だったので、類似性と相違性を強調するために、このような感想となっている。

 奇妙でつかみどころのない展開に頭の中でクエスチョンマークが増殖して拒絶反応を示してしまう人もいるかもしれないが、一度は挑戦して、違和感を確固たるものとして押し進めていく不思議な世界を味わって欲しい。

 ちなみに、この作品では 「うみみず」というキャラクターがお気に入りだ。彼女の「面倒くさスイッチ」を入れてしまうと、専門的で偏った、小難しくて深遠な知識の暴風雨に見舞われる。それが無茶苦茶で、それでいて高度に哲学的で良い。また、彼女以外にも突如として自らの専門知識を語り出して止まらなくなる人たちが登場して、なんなんだよもう、ととても笑える。最後に、物語の一場面から膨らんだ、物騒な妄想を一つ。消えて欲しくて仕方のない奴がいたとして、念願叶ってついにそいつを消す機会が訪れたのに、消しても消してもそいつが消えないときの気持ちって、どんなだろうか。