ライ麦畑で叫ばせて

日常・数理・旅や触れた作品の留書・思考の道草 などについて書いています。

ひとこと感想集

 

 これまで何冊の本を読んできたか知れない。これは数え切れないほど多くを読んできたと自慢しているのではなくて、ただ単に数えていなかったというだけのことである。

 現在の自宅の本棚には百冊程度の文庫本が並んでいて、ときどきそれらの背表紙を眺めながら「これはこんな話だったな」「このシリーズは○作目がよかった」「あいつがまたいい奴なんだよなあ」などと脳内感想発表大会をしている。

 だが、大抵は読み終えた直後の臨場感などすっかり忘れていて、驚きや感動も薄れきってしまっている。それがどうも勿体ない。

「読み終えたら一言二言でいいから感想を残すことにしよう」と何度思ったことか。でも、そのすぐ後には「ここから始めると以前に読んだ本の記録は残らないしな」と面倒な完璧主義の性格が邪魔をして、「残すからには体裁を整えて、後で読み返しても面白いものにしたいよな」と私程度の人間が悩んでも仕方のないことを気にかけ、結局感想のない本ばかりが増え続ける始末である。

 馬鹿者が! お前は感想リストにある本で図書館でも開くつもりか?

 阿呆たれが! お前は青少年読書感想コンクールで金賞でも狙っているのか?

 そうやって自分を叱り考えを改め、「まずは始めることが大事でしょうが!」と奮い立たせて、この「読書一言感想集」を作ることにした。

 以下には最近読み終えた本の作者・タイトル・出版社と感想を記すことにする。最近読み終えたものを思い出しまとめている時点で「臨場感のある感想」ではないのだが、まあ、これを手始めに感想集part 2、part 3として臨場感あふれるものを残していければ良いことにしたい。

 

*ちなみに、あまりネタバレのないように全体を通しての感想を書いたつもりですが、それも嫌だと言う方はご覧にならない方が良いかと思います。と断っておきます。

 

1. 村上龍五分後の世界』(幻冬舎

 日本が戦争を続けている世界に迷い込んでしまった男の話。

 まずは圧倒的な描写力に脱帽である。戦闘シーンなど、魅せるところは映像がスローモーションで浮かぶほどに詳細な記述があり、物語にぐっと引き込まれた。普通なら読みづらいほどの改行なしの長文が本作では完璧に機能していて、場面をより切迫したものにしている。これほどまでの描写力で殴られ続ける文章を他に知らない。

 あとは根底にある知性に惚れ惚れする。いろいろなことを知っていないとこんな文章は書けないよな、と感服してしまう。自分も歴史や地理をもっと勉強しよう。と反省させられた。

 タイトルから物語は始まっていて、最後の終わり方が本当に格好いい。

 

2. 恩田陸『私の家では何も起こらない』(角川文庫)

 読み始める前から「いやいや、タイトル絶対嘘ですやん! まさかねえ、起こるよね? 起こらないなら、それはそれでいいんだけど──ほんとに起こらない?」と期待と不安に心躍るよね。ある洋館を舞台にしたホラー的短編が繋がりをもって一つの作品となっている。

 短編によっては会話だけで話が構成されていたり、終盤まで語り手が誰なのか(あるいは、何なのか)よくわからないまま展開したりと、表現法も楽しめた。登場人物では最後の方に出てくる大工がお気に入り。

 ちなみに、恩田陸さんは私がこれまで最も作品を読んでいる作家。奇妙な話が上手なことを知っていたので、不安にならずに最後まで読めた(よく知らない作家がこれを書いていたら、色々な意味で不安になるかも)。

 

3. 太宰治『斜陽・パンドラの匣』(文春文庫)

 ずっと前に読んだときには私の力不足でよくわからなかったものの、この前読み返してみて良さに圧倒されてしまった。

『斜陽』は中盤から終盤にかけて「こう展開するのか」と感心した。主人公のお嬢様、高貴なお母様、出兵中の弟ほか、登場人物の個性がしっかり確立されている。あくまで静かに話は進んでいくふうだけど、実は動的は話だと個人的に思った。

 後半に「えっ!」と大衝撃を受けたところと、「え?」と主人公の行動に疑問をもったところが一つずつ。

パンドラの匣』からは今まで太宰治の作品から感じたことのなかった甘酸っぱさが感じられた。まず、どうしてこう登場人物を立たせるのがうまいのだろう。個性豊かで、どの登場人物も好きになってしまうではないか。

 物語は主人公が友人に送る手紙の文章だけで進んでいくのだが、その前提と構成も素晴らしい。どうすればこんな文章が書けるようになるの?

 あと、前向きな感じで物語が終わるのが印象的。序盤に出てくる文章を引用してまとめるなら〈人間は不幸のどん底につき落とされ、ころげ廻りながらも、いつかしら一縷の希望の糸を手さぐりで捜し当てているものだ。それはもうパンドラの匣以来、オリムポスの神々によっても規定せられている事実だ〉ということだ。

 

4. 東堂冴『虹彩・太陽をうつすもの』(文学フリマにて)

 友人と行った文学フリマにて、友人が購入したものを借りて読んだ。

 まず、文章が極めて繊細である。例えば煙草を燻らせるという行動が、煙草に火をつけ、口に加え、一口吸って、少し溜めて、煙を吐く、という一つ一つの動作に細かく分解され、緻密で多彩な表現でもってつなぎ合わせて記述される。そしてそれが、煙草から立ち上る白い煙、それが向かう夜空、人物のいる喫煙所、それがあるコンビニ、それが建つ街、そしてその様を見ている人の感情、という事細かな情景や心情に包まれ裏付けされている。私自身がやったら説明っぽくって読めないだろうな、というところが上手く表現されていてとても心打たれた。

 本自体は四つの短編からなり、大体が現実的な一場面を切り取ったような印象で、身近に感じられるような内容が多かった。ただ、友人も言っていたが、ときどき場面や時系列の切り替わりが急なところがあって混乱してしまうところがあったかも。