ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

京都を盗め(3)

 

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夕刻,我々はハンバーガーショップにてコーヒーをすすっていた。

京都国立博物館ではこれといった情報は得られなかった。手がかりとなりそうな仏像の展示スペースは完全改装中であり,係員の目を気にしながら首を伸ばして覗き込むことしかできなかった。

入り口前に広がるオープンスペースには「ゆるキャラ」なるものが集っていた。かつて此処に国を築きし者は,このような摩訶不思議なキャラクターがこの世界にて暗躍することを果たして想像していたであろうか。

 

「さて,時間も遅い。今日の調査はお終いだな」

「ああ。問題は宿だ。諜報に長けたS,お前でさえ手頃な宿が見つけられないときている」

ジャパンでは春休みの観光シーズン真っ只中だったらしい。宿といえば一泊一人数万円のところしか空いていなかった。

優秀な泥棒たる我々にとってその程度の金額を払えないこともないが。

結局,我々は「ネットカフェ」なる公私混同甚だしい不思議な空間をその日のアジトとした。入室後に居酒屋で京料理を堪能し,戻って寝ることに努めた。

 

朝七時,重い瞼を無理やり押し上げ,アジトを後にした。

ほとんど眠ることができなかったし,まだもう少し横になっていたかったが,部屋を出ないと追加料金が取られてしまうのだ。時間と金は大切だ。

駅前で見つけた銭湯で汗を流し,美味い塩パンを食って,予約していたカーシェアリングのステーションへ向かう。その辺に駐車している車を盗ればいいだろうって?調査では人様にご迷惑をかけないのが我々の流儀だ。

 

この日最初の調査地は「龍安寺」にした。相棒のSが是非調査したほうが良いと薦めてきた。枯山水の石庭で有名な世界遺産である。ここに設計図「京都」の手がかりがあれば良いのだが。

 

「何とも落ち着いた雰囲気だな。一時間はぼんやり眺めていられそうだ」

「だがそうのんびりもしちゃあいられねえ。お前,ここの石の秘密は知っているか?」

「一応はな。石は全部で十五個,どこから見ても一個以上は別の石に隠れてみえない,という噂だが──」

「一箇所だけ全ての石が見えるところがある訳だ」

「そういうことだ」

我々は血眼になってその場所を探した。他の観光客がのんびりと,ゆったりした時を過ごしているその前を,後ろを,脇を,目まぐるしく駆け巡った。

そして,ついに見つけた。

「ここだ──!十五個見えるぞ」

「ああ。で,何なんだ?」

もういいだろう秘宝とか,そういって私と相棒Sはしばらくその場に座り込み,ぼんやりと石庭を眺めた。

 

後になってわかったことだが,石が十五個である意味だとか,ほとんどの場所でそれら全てを一望することはできない訳だとか,十五個見えるレアな場所だとかは,Google検索するといくらでも出てくるのだった。ジャパンではこの検索エンジンに敬意を表して「グーグル先生」と呼ぶらしい。あっぱれである。

 

結局,龍安寺でも秘宝「京都」の情報は得られなかった。 

次の目的地は「金閣」。

”黄金の指先に呪いの果実を”は古代エジプト文明の墓にドロボーに入ったときの暗号だったか?とにかく豪華絢爛と忌まわしき秘密は隣り合わせだ。ここらで手がかりをみつけなければ優秀な泥棒の名が廃る。

 

 (次回へつづく)