ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

自然科学・数学

走り歩き自伝

ランニングの距離と時間を記録するために使っているアプリがある(RunGraph)。先日、ふと気になってこれまでの記録をざっと振り返ってみた。記録を始めたのは2017年2月。私が博士課程で大学にいたときだった。つまり、約7年間の記録ということになる。そこ…

責任者出てこい

論文掲載にいたるまでに、査読というプロセスがある。投稿された論文が、雑誌掲載に相応しいか否かを判断する作業である。自分が論文を投稿する際には避けては通れない過酷な道であるし、反対に、自分自身が他の研究者の論文を査読する(=障壁となる)こと…

感想43『サラバ!(上)』・『海のトリビア』

68. 西加奈子『サラバ!(上)』(小学館文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 上中下の三巻からなる長編のうち、まずは上巻だけを読んで感想を書いている。上下巻で完結と勘違いして、既に下巻だけ買ってしまった。中巻はまだ入手していないこともあり、読破までは少…

計算の奇妙な空想

先日、食塩水の濃度云々の数学問題を解く機会があった。「濃度」の問題とくれば「しみずの表」を書くということが、私には刷り込まれている。しみずの表とは、し(塩)、みず(食塩水)、の(濃度)の3項目について、混合や変化の前後の値を埋めていったもの…

船乗りは、若い

昨年末に、航海中の時間と記憶の異質性について触れた(2021年の振り返り)。海と陸とでは、空間はもとより時間にも大きなギャップがあるような感じがする。そして、その結果として、その間には記憶の乖離のようなものが生じる。船上の生活は、陸上の”日常”…

感想21『科学と宗教』

37. Thomas Dixon(著) 中村圭志(訳)『科学と宗教』(丸善出版) 再読したい度:☆☆★★★ 学生時代、修士から博士課程にかけて、専門の研究に加えて、とあるプログラムに所属して副専攻のような形式で学んでいた。その関係で、科学と社会といった類の話題…

感想20『数と記号のふしぎ』

36. 本丸諒『数と記号のふしぎ』(SBクリエイティブ) 再読したい度:☆★★★★ 図書館シリーズ。数学で使われる数字や記号がまとめられた内容だ。知らない表現があったらどうしようとヒヤヒヤしていたが、全て目にしたことのあるものだったのでそこは安心した…

7つの基本単位

世界は無数の数値で満ちている。それらは大抵の場合、特定の「単位」をつけて用いられる。中学や高校の理科教師たちは、「計算をするときは単位に注意しろ」と口うるさくいっていた。私も塾講師のアルバイトをしていた頃は生徒たちにこの受け売りの言葉をか…

すぐカッとしてしまうあなたへ ──パブロフ流 冷静術──

このご時世、公共の場でくしゃみをするのは躊躇われる。だから、出そうでどうしようもないとき、私はこっそりそれを止めている。やり方は簡単で、くしゃみが出そうになって口が開いた瞬間、鼻の下のくぼみのあたりをぐっと押すだけだ。押し方によっては往年…

信じる心ってなんですか?

数ヶ月前から愛でていた金魚草という花が、数日前に二、三咲いた。 一度は全部枯れてしまって、開花の時期もとっくに過ぎていたのだが、日なたを見つけては運び、剪定もこまめにやって世話を続けていたら、立派に咲いてくれた。一縷の望みを抱きつつ、愛し続…

模倣と創造

かの有名な物理学者アイザック・ニュートンは、運動の三法則に基づいて古典力学の基礎を確立したことで知られる。彼が提唱した三法則のうち、第二法則は「運動の法則」と呼ばれる。「運動方程式」といわれると、ああ、あれか、と思われる方も多いだろう。法…

成金のゆび、貧乏人のゆび

みなさんご存知のように、海水は水と塩により構成されている。そして、海水の特性を決める最も重要な量に、水温と塩分がある。ここで、塩分とは水に含まれる塩の割合、すなわち塩濃度を意味する。「分」が「濃度」の意味をもつので、本来、「塩分濃度」とい…

変わりゆくときの中で

東に向かって時速60 kmではしる車の中からみると、道端でぼんやり突っ立っている老人は時速60 kmでこちらに近づいてくるようにみえる。そして100 m先を時速60 kmで東にむかうバイクには、車はいつまで経っても追いつくことはできない。 この相対速度的な考え…

近づく窓から見えるのは

久々に青空の広がる晩夏のある午後。 今日はいい天気ですね。地上5階のビルの廊下を一緒に歩く後輩が話し掛けてきた。 そうな、最近ずっと雨だったもんな。淡々と、だが心から彼の言葉に頷く。 あのビルは何なんですかね? 廊下の一番向こう側、遠くの窓か…

ゆけゆけアマゾン調査隊

先月,極めて真面目な研究集会であるにも関わらず,「○○フェスタ2017」と銘打たれた,お洒落で素敵な集まりに参加してきた。 「我々の分野はこれからどうなってしまうのか」 「この厳しい状況をどう生き抜くべきか」 と,内容はなかなか深刻なものが多かった…

美しさは崩れる運命にある

2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎氏は,授賞理由でもある「自発的対称性の破れ」というものを,「倒れる鉛筆」をみてひらめいたという。 私のゴミ屑ほどの知識で「自発的対称性の破れ」を説明すると,以下のようになる。 これまで多くの物…

光と弾丸

皆さんは,本を読みながら,映画を見ながら,講演を聴きながら,メモをとるだろうか。 旅先の建物,景色,食べ物,全てを写真におさめるだろうか。 私は,どちらもあまり積極的にするほうではない。 それでも,「あそこで食べたアレは美味しかった」とか,「…

時間軸の交錯

時間とは,物理学における互いに独立な7つの基本単位のうちの1つである。 私の携わっている地球物理学においても例外ではなく,長さ,質量,温度と併せて最もよく使われる単位のうちの一つだ。 そしてなにより,物理学に限定しなくとも,我々は今この瞬間…

誰が最後に笑ったか

突然ですが,ここで問題。 ”今,あなたの前に3つの箱がある。1つの箱には「賞金100万円」,2つの箱には「たわし」が入っている。そして,あなたは最終的に選んだ箱の中身を貰うことができる。まず,あなたが1つの箱を選択する。私は残りの箱のうち「たわ…

巡る巡るは海のよう

負の要素が人を駆動する力というのは甚大だ。 成功や幸福なんかのポジティブな事象より,失敗,恐怖,失望などに突き動かされることの方が(少なくとも私は)多い。 私にも,スポーツというものに打ち込み,仲間たちと更なる高みを目指して血と汗と涙を流す…