ライ麦畑で叫ばせて

日常/数理/旅や触れた作品の留書/思考の道草 などについて書いています。

作品感想集

感想51『火花』・『土の中の子供』

82. 又吉直樹『火花』(文春文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 図書館シリーズ。言わずと知れた第153回芥川賞受賞作。漫才師を主人公とした小説を私は他に知らないが、芸人としての考え方やネタを集めて、「生まれながらにして芸人」というような人物を創造して語…

感想50『眠れる美女』

81. 川端康成『眠れる美女』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆☆☆ 再読シリーズ。表題作および『片腕』、『散りぬるを』の3編が収録されている。前回紹介『少し変わった子あります』が表題作に類似していた気がして、読み返してみた。毎度異なる女性と「添い寝…

感想48『木の一族』・『預言者の名前』

77. 佐伯一麦『木の一族』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 前回紹介『ア・ルース・ボーイ』に続けて読んだ。続編とは銘打っていないが、主人公の男の性格、周りの人間や環境、回想、どれをとっても「続編」以外の何物でもなく、著者が「私小説」の書き手で…

感想47『ア・ルース・ボーイ』・『MISSING』

75. 佐伯一麦『ア・ルース・ボーイ』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 何気なく図書館で手に取った一冊。著者は仙台出身で、かつ本作の舞台も仙台だったこともあり、妙な親近感を覚えて読んだ。第4回三島由紀夫賞受賞作。 進学校を中退し、子連れの同級生…

感想46『アルバイト探偵 調毒師を捜せ』・『わたしの好きな季語』

73. 大沢在昌『アルバイト探偵 調毒師を捜せ』(講談社文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ 昔にシリーズ1作目を読んでおもしろかったので買った続編の短編集だ。そのまま長いこと放置してしまっていたせいで、序盤は登場人物を忘れかけていたが、前作を読み直す必要…

感想45『風の中のマリア』・『飽きる力』

71. 百田尚樹『風の中のマリア』(講談社文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ オオスズメバチの働き蜂が主人公の、異色の物語。今回は珍しく、蜂の世界の話であるという前提条件は知った上で購入した。オオスズメバチに関する知識不足も手伝って、初めは世界観に入り…

感想44『大河の一滴』

70. 五木寛之『大河の一滴』(幻冬社文庫) 再読したい度:☆☆☆☆☆ 友人に読むべしと勧められ、同時に感想を書くのは難しいだろうと挑発された一冊。確かに、本筋から派生して話題は多岐にわたるのでまとめるのは容易ではなかったが、読了後の臨場感をそのまま…

感想43『サラバ!(上)』・『海のトリビア』

68. 西加奈子『サラバ!(上)』(小学館文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 上中下の三巻からなる長編のうち、まずは上巻だけを読んで感想を書いている。上下巻で完結と勘違いして、既に下巻だけ買ってしまった。中巻はまだ入手していないこともあり、読破までは少…

感想42『夏の朝の成層圏』

67. 池澤夏樹『夏の朝の成層圏』(中公文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ 漁船から転落し無人島に漂着した男の生活と思想の変化を緻密に描いた作品。正直、10年くらい前の私だったら、序盤で読むのを諦めていたかもしれない。だが、だからこそ、本というものに慣れ…

感想41『木洩れ日に泳ぐ魚』・『空気の発見』

65. 恩田陸『木洩れ日に泳ぐ魚』(文春文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 引越しの荷出しを終えて、がらんとした賃貸アパートの一室で、テーブルがわりのキャリーケースを挟んで向かい合う男女。酒を舐めながも、二人には思うところがあるようで、どうやら喜ばしい…

感想40『斜陽』

64. 太宰治『斜陽』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆☆☆ 一言、圧巻である。本作は、貴族に生まれた女とその家族の破滅を描く物語だ。斜陽、すなわち沈みゆく太陽。まさに表題の通りである。夕暮れ前、物語の始まりはあまりにのどかで、明るく、上品だ。その印…

感想39『雑談力』

63. 百田尚樹『雑談力』(PHP文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 「コロナ以降、学生の雑談力が低下している」という話を大学時代の恩師から聞いて、雑談については自分でも考えたいと思っていた。そんな折、図書館で本書を見つけ、手に取った。 まず、雑談とは何か…

神ゲームことバイオハザードシリーズの感想列挙

最近、無二の友と会えていなくてお互いに「寂しい」と連絡を取り合っているのだが(恋人かよ)、今度彼と会ったときにやりたいことの上位候補はなんといってもバイオハザードだ。言わずと知れた神ゲーム。今まで彼とのバイオハザードにどれくらいの時間を費…

感想38『海の見える理髪店』・『スケルトン・キー』

61. 荻原浩『海の見える理髪店』(集英社文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 六編が収録された短編集。2016年に第155回直木賞を受賞している。読みやすく、滑稽で、でもそれだけではない哀愁や感動がある。全体を通して感じたのは、会話あるいは語りで巧妙に話を展…

感想37『冬の蜻蛉』・『峠の声』

59. 伊集院静『冬の蜻蛉』(講談社文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ あっさり読み進められるけど味わい深い、7つの短編が収録されている。料理に例えるなら、なんだろう、塩鍋だろうか。読みやすいのは、語りが淡々としているのと、定番の型に当てはめられる話が…

感想36『2017年版夏井いつきの365日季語手帖』

58. 夏井いつき『2017年版夏井いつきの365日季語手帳』(マルコボ.コム) 再読したい度:☆☆★★★ 図書館シリーズ。1日1句、全365句が味わえるようになっているのを、2週間弱で堪能した。取り上げられた俳句は写実的で基本的なものが多い印象。調べると年ごと…

感想35『遮光』・『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』

56. 中村文則『遮光』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ 冒頭の印象はZAZEN BOYS『ASOBI』の世界観だった(曲を知らない方は下の動画を見ていただきたい)。主人公の男は、女や友達の話を全く聞いていない。バカのふりをして、でも研ぎ澄まされた感性を持ち…

感想34『神様ゲーム』・『出版禁止』

54. 麻耶雄嵩『神様ゲーム』(講談社文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 妻の本棚シリーズにして、読み始めてから気づいたが、再読シリーズ。結末が衝撃的というか腑に落ちない内容だったことは覚えていたが、その結末自体はすっかり忘れていたので、二度目でも十分…

感想33『文字禍・牛人』

53. 中島敦『文字禍・牛人』(角川文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 図書館シリーズ。短編六編が収録された一冊だ。著者の代表作といえば『山月記』だろう。山月記が虎への変身なら、収録の『狐憑』は憑依、『木乃伊』は輪廻、『文字禍』は精霊、『牛人』は化物の…

感想32『陽だまりの彼女』・『午後の曳航』

51. 越谷オサム『陽だまりの彼女』(新潮文庫) 再読したい度:☆★★★★ 見慣れない本が私の棚に入っていたので、おやと思い手に取った。妻のものが本棚の整理中に紛れたことを数ページ読んで確信した。 学生時代に互いに恋心を抱いていた男女が、取引先との打…

感想31『君の膵臓をたべたい』

50. 住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉文庫) 再読したい度:☆☆☆☆★ 本ブログを読んでくださった方から「私が再読したいと思うのはこの本だけ」と紹介いただいた一冊。ほか、何人かの友人知人からも勧められたことのある本だ。悔しいが、面白かった。悔し…

感想30『元気が出る俳句』

49. 倉阪鬼一郎『元気が出る俳句』(幻冬舎新書) 再読したい度:☆☆☆☆★ 壮大だったり前向きだったりして元気の出る俳句が紹介されている。食べ物、動物などのテーマ別に十二の章に分けられているので、好みのものをピックアップして鑑賞することも可能だ。…

感想29『海賊の世界史』

48. 桃井治郎『海賊の世界史 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで』(中公新書) 再読したい度:☆☆★★★ 図書館シリーズ。海に出る男として、そして『ワンピース』マニアとして、この歴史を知らぬわけにはいかない。高校では世界史を選択していたが…

感想28『蛇を踏む』・『晩夏のプレイボール』

46. 川上弘美『蛇を踏む』(文春文庫) 再読したい度:☆★★★★ 図書館で借りた本。第115回芥川賞受賞作。表題作を含む3作を収録しており、どれも好みがはっきり分かれそうな物語だった。 表題作は、踏んだ蛇が人間の姿となり、家に住み着いてしまう不思議な世…

感想27『悲しみよ こんにちは』

45. (著)フランソワーズ・サガン(訳)河野万里子『悲しみよ こんにちは』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆★★ 再読シリーズ。十代の少女セシルと家族、友人たちとの一夏の経験を描いた作品。早くに妻に先立たれ、以来刹那的な恋愛を好む父と、それを許容す…

感想26『老人と海』・『晩夏─少年短篇集』

43.(著)ヘミングウェイ・(訳)福田恆存『老人と海』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 再読シリーズだが一度目の記憶はほぼなし。漁師生活最後の栄冠たる巨大魚の捕獲に執着した老人の、巨大魚、ひいては海という大自然を通した、老人自身との対話である。…

感想25『あすなろ物語』

42.井上靖『あすなろ物語』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆☆☆☆ 読み始めてすぐ、いつか読解問題で取り上げられていたのを読んだことを思い出した。一度問題を解いただけなのにはっきりと記憶に残るほど、問題の部分(本書の第1章の終盤にあたる)は自分にとっ…

感想24『あるべき場所』・『街角の科学誌』

40.原田宗典『あるべき場所』(新潮文庫) 再読したい度:☆☆★★★ 表題作を含む5編を収録している。はじめの2編は日常に近い雰囲気だ。展開はねっとりしているというか、もっさりしているというか。何か新展開を期待していると、何も起こらない焦ったさがある…

感想23『怖いへんないきものの絵』

39.中野京子、早川いくを『怖いへんないきものの絵』(幻冬社) 再読したい度:☆☆★★★ 図書館シリーズ。題名をみて、怖い絵やらへんないきものやら、人気のありそうな内容のいいとこどりかと思って手に取ったら、まさしくそうだった。だが、そんな安易な取…

よくあれという思いやり草の花

改札を出ると、まだ朝早いというのにカレーの匂いがした。食べ物の良い匂いがすればその出どころを探るというのは、人間に備わる本能ではなかろうか。結局のところ、その主は少し前をゆくサラリーマンの食べる「カレーまん」で、合点がいったのと同時に、何…